2014年5月、タイで国軍によるクーデターが発生した。私はテレビにくぎ付けになった。そのわずか2カ月前に、バンコクで陸軍中将と会っていたからだった。
さすがに軍のスーパーエリートというだけあり、中将は品があってウイットに富んでおり、流暢な英語を話し、気配りも知性も貫禄も、すべて兼ね備えていた。その彼がこう言った。
「日本という国はすごいね。自警団が戦車を持っているんだね。日本は島国で、わが国のように隣国と地続きなわけでもないのに」
「えっと、それは自警団ではなくて、“陸軍”なんです」
自衛隊は英語でSelf-Defense Forceである。私は、数え切れない外国の人たちと話をしてきたが、相手の母語が英語であろうがなかろうが、この言葉が自衛隊を意味すると理解できた人は、ただの一人もいなかった。毎回、なぜ意味不明な呼び名を使うのか説明しなければならなかった。
中将にもいつものように説明した。
「憲法に、陸海空軍(その他の戦力)を保持しないとあるので、アーミーとか、ネービーと呼ぶわけにはいかないんです。ですからグランド・セルフディフェンス・フォース(陸上自衛隊)とか、マリタイム・セルフディフェンス・フォース(海上自衛隊)とかになるのです」
今までの人は、たとえ理解はしていなくても、「へぇ、そうなんだ」と軽く流してくれたのだが、この中将は違った。眉間にシワを寄せ、目をつぶって真剣に何かを考えていた。二呼吸ほどの重苦しい時間が過ぎると中将は静かに言った。
「君、それは間違っている。変えなければならないのは、呼び方ではなくて、憲法だろう」
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