この連載の第152回に、英国の俳優トム・コートネイのその後の消息を知りたい旨を書いた。それを読んで、トムのことを載せた名鑑を送ってくださった方がいる。編集部気付(きづけ)だ。御自身の住所氏名は書かれていない。私が名鑑を返送する労を省きたいからだという。
昔見た映画に『ブリガドーン』というのがある。百年に一度アイルランドによみがえるある村の物語で、ここに紛れ込んだ若者二人のファンタジックな話だ。私は突然この村に誘い込まれた気がした。シド・チャリシー演ずる、村の美少女でダンスの名手に遭遇した思いだ。
お手紙が添えてある。好きな文章、詩、俳句、短歌に出合うと、「宝箱」と名付けた手帳(四季に分けてある)に書き込むのだという。
読んで私はすぐモンテーニュの言葉を思い出す。モンテーニュは『随想録』の中で、「自分だけの小さな空間を持ちなさい」と言った。私の座右の銘の一つだ。落ち込んだとき、思索にふけるとき、悲しみにじっと耐えるとき、勇気を奮い起こすときなど、他人に見せたくない自分だけの空間。モン様は本当にうまいことを仰る、と感心している。
私もこの助言に従い小さな空間を持っている。会議中でも客と対話中でも、行き詰まるとここへ入り込む。この小空間を“自治の間”と名付けている。自身に潜在する自治力(危機克服の活力)を掘り起こす場だからだ。したがって私の小空間は仕事場だけにあるわけではない。講演会場、会議場、対談・打ち合わせの場、さらに飲み屋などどこにでもある。私の行く所に必ず設定される“移動式”の部屋なのだ。
昔「柔道一代」というテレビドラマの脚本を書いたことがある。テーマソングを村田英雄さんが歌った。その一節に♪泣きたかったら講道館の青い畳の上で泣け、というくだりがある。これも武道修行者の“自分だけの小さな空間”だ。
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