一橋大学経済研究所では、日本の1人当たりGDP(国内総生産)を過去にさかのぼって推計するというプロジェクトを行ってきた。100年前、200年前の生活水準を現代と同じ基準で、しかも他の国々と比較可能な指標で推計するという試みは、『世界経済史概観』(岩波書店)などの著作がある英経済学者のアンガス・マディソンによって知られている。私たちのプロジェクトはそれを改訂するものである。
推計の詳細は近刊の論文に譲ることにして、下表を見てほしい。幕末維新の時代の1人当たりGDPは800ドル台〜1000ドルという推計結果が出た。これは「1990年国際ドル」という、それぞれの時代の推計値を1990年の購買力平価でドル換算した実質GDPである。
私たちの推計はマディソンの想定よりも3割ほど高い。とはいえ、現在の20分の1くらいの生活水準である。これは1950年代のタイ、80年代のベトナムを思い浮かべれば、多少は実感が湧くであろうか。ただ、ゆっくりとではあるが、徳川時代から成長が始まっていて、維新後にはそのレベルが少しずつ上がっていった。
維新後は「坂の上の雲」の時代である。1人当たりGDPも1874(明治7)年の1013ドルから日露戦争後の1467ドルへ、第1次世界大戦後はさらに成長して1940(昭和15)年には3071ドルとなった。明治初年の3倍の水準になったのである。司馬遼太郎がいうように、明治の楽天家たちが先進国経済の「かがやき」を見上げながら、たゆまずに坂を上っていった結果、第2次世界大戦前後の大きなつまずきはあったけれども、やがてあの高度成長につながった──。このように読むことができそうである。
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