五輪フィギュア「使用する楽曲」の意外な選び方 「王道曲を使うのは有利なのか」町田樹氏が解説
続いてモダン曲のメリットはどうか。
「曲に起伏がなく、メロディーもあまり感じられないモダン楽曲の場合、曲調にプログラム構成が引っ張られません。どういうことかと言いますと、先ほど言及した王道曲などでは、どうしても盛り上がりや、スローパート、アクセントとなる音などに応じてジャンプやスピン、ステップなどを配置していく必要があります。そうしないと曲と動きが合っていないとみなされ、演技構成点で良い評価を得ることができません。しかしモダン楽曲には起伏がないので、ともすれば音楽を無視しても、そんなに違和感を感じないわけです。したがって、自分が最もやりやすい位置に技を配置するなど、自由にプログラムを構成することができるメリットがあります」
4回転ジャンプを複数跳ぶ高難度時代が男女とも加速したことで、選手が跳びたいタイミングを重視した。それがモダンの使用率を上げていると見る。では、デメリットはどうだろうか。
「モダン楽曲は音楽だけ聴いてても起伏がない分、ジャンプの失敗が続くと余計に、淡泊で単調な演技になりやすいです。選手自らで音楽をけん引して観客の側にアピールしないと、結局どんな演技だったか、終わってみれば何の印象も残っていないという悲惨な事態が起こり得ます。ですから、感情表現や動きのボキャブラリー、はたまたコンセプトなどの点で創意工夫を凝らして、観客の側に積極的にアピールしていかないと、どうしても印象の薄い演技になってしまうわけです」
ジャンプ、スピン、ステップなどの要素だけに還元できない動き。曲に支えられる要素が少ないからこそ、体を使った意外な動作などの創意工夫がより一層求められる。14年にシングルとペアでもボーカル(歌唱)入り曲が解禁された後、技術の向上と重なるように、選曲に関する通説も変わってきているようだ。
金メダル最有力選手が「ボレロ」を使う意図
王道的な曲か、モダン的な曲かで選択曲のメリットとデメリットを解説してもらったことを踏まえて考えてみると、興味深い例の1つは、女子の世界最高点保持者で金メダル最有力の15歳、ワリエワ(ロシア)だろう。フリーには王道「ボレロ」を持ってきた。彼女は高難度ジャンプを操るが、跳びやすいモダン曲ではなく、比較対象が多い「ボレロ」を使う意図は-。
「あくまで推測ですが、難しい技をこなしながらも、過去を乗り越えられるとの自信があるのではないでしょうか」
果たして、どんな演技を披露するのか。まずは4日の団体戦から競技が始まる。ワリエワだけではない。五輪だからこその各スケーターの狙いを感じるのも面白い。最後にまとめを。
「戦略なき選曲はどちらを選んでも失敗します。自分の戦い方、見せ方に応じた曲選びが非常に重要になりますね」
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