間違いなく「悪い円安」が日本経済を蝕んでいく 円安万能論を捨て、日銀は正常化を示唆すべき

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商品市況や為替相場に絡んだ話を国内のマクロ経済政策で大きく修正するのは不可能である。しかし、何もできないわけではない。これを機に、ポーズであっても日本銀行は金融政策正常化を示唆したほうがよいと筆者は考えている。これまで緩和策の副作用を指摘されながらも日銀が正常化プロセスに触れなかったのは、「物価が上がらないから」というのが建前だが、本音は「円高が怖いから」で、これが最大の理由であろう。

過去における日銀の緩和政策が往々にして円高・株安に呼応する格好で決断されてきたことがそれを示している。実際、日本の輸出数量が円安と正の相関を持っている時代には、その判断は適切でもあった。しかし、アベノミクス下ではドル円相場は50%以上上昇したが、輸出数量はほとんど増えなかった。これでは円安になっても貿易収支の改善はなく、単に所得流出が増えるだけである。実際にそうだった。

また、近年ではドル円相場と日経平均株価の相関も不安定になっており、円安による株価浮揚の効果も過去ほどではない。いつかはやらねばならない出口戦略なら今が好機ではないか。

過去1年半で日本経済は欧米経済に大きく出遅れており、もはや日銀以外の海外主要中銀は正常化プロセスに関し一歩も二歩も先行している。今さら、金融市場での注目度が下がっている日銀が多少の縮小を示唆したところで、かつてのようなヒステリックな円高になるとは思えない。

後手に回れば円が売り込まれるリスク

微力であっても円安進行を抑止する一助になる可能性があるならば、「正常化プロセスを検討している」と述べる程度のアクションを起こしてもよい。理由づけはインフレ高進への予防的措置とでもすればよい。これまで何度となく無理筋な理由づけをしてきたのだから、上述したような実質所得環境の危機的状況を踏まえれば、十分まかり通るだろう。

重要なことは、政策当局は焦燥感を市場に悟られてから動くとロクな目にあわないということだ。市場参加者から「円安は日本経済にとって痛手」と認識され、いったんその方向に相場が動き始めたら、円売りで攻め込まれる恐れがある。そうなってからではできることは非常に限られてくる。

金融政策に限らず、まだ傷の浅い今のうちに少しずつ円安を抑止できるような処方箋を日本は検討すべきように思える。それくらい、円安と原油高が同時進行する現状は危うい。また、これを契機に円安万能論のような社会規範も修正されていくことも必要である。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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