主演俳優で振り返る「NHK大河ドラマ」の歴史 今年で60作目、最多主演4回を誇る名優とは?

拡大
縮小

大河ドラマと言えば、視聴率も注目の的になる。

歴代最高視聴率は、『赤穂浪士』(1964年放送)の11月29日放送回の53.0%(ビデオリサーチ調べ。関東地区世帯視聴率。以下も同じ)だが、全話の平均視聴率では1987年放送の『独眼竜政宗』が記録した39.7%になる。続く第2位が翌年放送の中井貴一主演『武田信玄』で39.2%。1980年代は、ほかにも『おんな太閤記』『徳川家康』『春日局』が平均視聴率30%を超えていて、視聴率的にはこの時期大河ドラマは絶頂期を迎えた。

その理由としては、人気の戦国時代を舞台にした作品が多かったこと、女優や若手俳優が主役を務める新鮮さ、そしてヒットメーカーとして定評のある橋田寿賀子やジェームス三木らの脚本の魅力などがあるだろう。

幅広い視聴者に見てもらうための工夫にも抜かりがなかった。たとえば、ジェームス三木脚本の『独眼竜政宗』では、毎回ドラマが始まる前に歴史解説のミニコーナーが設けられた。豊臣秀吉、徳川家康の2人と伊達政宗の年齢差をプロ野球の王、長嶋と清原、桑田の年齢差にたとえて説明したり、本能寺の変の説明に過去の大河ドラマの信長の自刃シーンを使ったりするという具合である(鈴木嘉一『大河ドラマの50年』)。この趣向は好評で、これ以降の作品にも受け継がれた。

高視聴率のもう一つの理由

もうひとつ、1980年代の高視聴率の理由をあげるとすれば、豊かな時代を背景にしたテレビ全体の勢いもあっただろう。『独眼竜政宗』が放送された1987年は、バブル景気の真只中。そのなかでテレビも家庭の娯楽の中心だった。

『NHK紅白歌合戦』の視聴率がまだ55.2%あり、プロ野球中継も高い時は30%を超えるほどの人気。明石家さんまと大竹しのぶ共演の恋愛ドラマ『男女7人秋物語』(TBSテレビ系)の最終回は36.6%を記録し、トレンディドラマブームももうすぐそこに来ていた。

1990年代以降、平均視聴率が30%を超えた大河ドラマは、いまのところ主演の竹中直人の熱演が話題になった『秀吉』(1996年放送)のみである。さらに2010年代になると、平均視聴率が10%台前半というケースも目立つようになってきた。むろん視聴率の高低が作品の評価に直結するわけではないが、気になるところではある。

そこにはさまざまな理由が考えられるが、いずれにしても、大河ドラマは次の時代に生き残っていくための試行錯誤の時期に入ったと言える。その際にもやはり、誰が主演かは命運を握る重要な鍵になるに違いない。

太田 省一 社会学者、文筆家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『平成テレビジョン・スタディーズ』(青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT