こうした意味で、目先のイベントとしてイギリスのEU離脱の行方を警戒している。ただ、どのような形であれイギリスがEUから早期に離脱することは、同国経済にとってむしろ望ましいと考える(この点は5月30日コラム
「EUへの民衆の支持が一段と落ちると読む理由」ですでに指摘した)。
2016年以降の約3年間にわたり、EU離脱問題がどのような結末になるか分からないという不確実性が、同国の企業の設備投資を抑制し、成長率を下押ししてきた。EU離脱の行く末がはっきりすれば、抑制されていたイギリス企業の設備投資が増え始める可能性がある。
もちろん、合意なき離脱となれば、モノ・ヒトの移動などに際して短期的に混乱が起きる可能性は否定できない。ただ、合意なき離脱となった場合は、英国は物品の87%の品目の輸入関税を無税にする暫定措置を発表、また関税職員を増やす対応を行っている。このため、海外からの輸入品が突如途絶えるリスクは限定的とみられる。
英国は合意なき離脱となっても、危機を回避する
合意なき離脱によって、イギリスの株安、通貨安など金融市場にショックが起こり、金融システムが揺らぐこともリスクだろう。ただ、英イングランド銀行(中央銀行)は、ショックに備えて金融政策を慎重に運営しているが、合意なき離脱となれば利下げに転じ金融市場に流動性を供給する政策に踏み出すだろう。そして、政治情勢は予想できないが、ジョンソン首相は今後政府歳出を大規模に増やすプランを明示している。これらの政策対応によって、仮に合意なき離脱となっても英国は危機を回避すると予想する。
つまり、今後想定されるイギリスの合意なき離脱は、2016年半ばのEU離脱の是非を問う国民投票後のように一時的に金融市場が大きく動く可能性はあるが、それが世界の景気動向に及ぼす影響は同様に軽微にとどまるだろう。
むしろ、合意なき離脱となり経済的苦境に直面するのは、イギリスと経済関係が深いフランスを中心としたEU諸国ではないか。イギリスではEU離脱に向けた準備が進んでいるが、イギリスと貿易取引がさかんなフランスなどでは税関などの準備が十分に進んでいない可能性がある。さらに、ドイツでは2019年になってから景気指標の停滞が顕著で、イギリスのEU離脱が引き起こす混乱が、EU諸国の景気停滞をより深刻にするリスクがあるとみている。
なお、自国の経済安定のために、金融財政政策をフルに使える強みをイギリスが持っていることは、アメリカ同様の強みである。EUからの離脱を控え、イギリスはいずれの政権になっても拡張的な財政政策に転じるとみられる。この結果、現時点で緊縮財政政策を続けている主要国は、ほぼ日本だけであることは一層鮮明になっている。
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