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この連載を通じてずっと問いかけられてきたのは、「働くこと」とは何かということだった。この難問に明治大学文学部教授の齋藤孝先生とサイボウズの青野慶久社長が答えを出すべく対談した。これから社会に出ようとしている若者たちをを聴衆として、「働くこと」のプロである彼ら2人から語られる言葉は、もはやこれまでの働き方では通用しないと言われる時代において、重要なヒントとなるものであった。
働くことを自己実現だと思っている
君は間違っている
齋藤 私が考える働くことについての概念は「自己実現」より「他者実現」です。よく働くことについて、「自分のやりたいこと」を出発点として考える人が多いと思うのですが、むしろ、「やるべきことをやる」「求められていることをやる」というのが、仕事の出発点としては本質だと思います。
青野 仕事といえば、何かと「自己実現」と思いがちですが、「それは違う」というところから入るべきだと僕も思っています。
昔、ある社長から「青野君、働くってどういうことだと思う?」と質問されたとき、僕は当然のように「自己実現」と答えました。すると、その社長は「僕はね、生きるってことだと思う」と言ったのです。
人類の歴史を遡れば、狩猟民族にとって、狩りをするのは生き残るため。農耕民族にとって、農作物をつくるのは生きるためでした。
まさに食っていくことが原点で、その人たちが生き延びてきたからこそ、今の僕たちがある。僕たちは豊かになって、その原点を見失ってしまったようです。その結果、働くことをむやみに自己実現と言ってしまうのではないでしょうか。
齋藤 私も、自分のやりたいことをやりたいと思っていた時期は、人生が手詰まりな状態でした。自分がやりたいことだけをやっていると、自己の世界は拡がっていきません。むしろ、人が望んでいる願望や要望を満たしていくと、次のオファーがくる。それを断らないで、来た球をまた打つ。そうすると、自分でも思ってみないような仕事ができて、自分の幅も広がり、相手も喜んでくれる。それが循環を生む。仕事は基本的に循環しないといけないと思います。
青野 プロ野球の小笠原道大選手は、もともとキャッチャーでした。なぜキャッチャーをやったのかといえば、別にやりたかったわけではなく、やる人がいなかったから。それで、レギュラーになった。レギュラーになると磨かれるんです。気がつけばスーパープレーヤーになっていた。求められることに応えるって正しいのです。
自分の本当の強みは自分が思っているものと
本当は違うかもしれない
齋藤 自分がやりたいこと以前に、今求められていることを、とりあえずやる。そうすると循環の中に入れて、仕事が増えていく。
アメリカの実業家で鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーもそうでした。『カーネギー自伝』を読むと、彼は少年の頃、電信局で働いているとき、通信手が休むと、そこに代理で入るんです。すると、「あいつ、仕事できるじゃないか」と評判になり、また別の部署で誰かが休むと代理を依頼される。そうして成功のきっかけを彼はつかんでいったのです。私はそれを“代理力”と呼んでいます。自分がやりたいことではなく、人が抜けたところにとりあえず入っていく。逆に言えば、チャンスをつかむには「絶対に休むな」ということなのです。
青野 これから社会に出て働こうという人にとって、自分の本当の強みはなかなかわからないものです。自分が思っている強みも、いざ社会に出てみると、意外にそうでもない場合が多い。実は別のところにあるかもしれない本当の強みこそ、この“代理力”で引き出せると思うのです。
頼まれたときに、向いてないなあと思っても、とりあえずやってみる。それが意外にうまくいくと、自分の強みを見つけられるし、もし成果が出なかったら、自分には向いていないと思えばいい。これを繰り返していると、本当の自分の強みがわかってきます。僕も過去を振り返ると、そうやってきたように思うんです。
齋藤 自分でチャレンジすることが大事だとよく言いますが、とりあえず来た球を打つことは、チャレンジと同じです。そして、来た球を即座に“前倒し”で打つことも必要です。仕事というのは、もう遅いだけで“負け”です。もし1週間でやれと言われたら、2日で仕上げてみせる。すると「おお、やる気あるね」と評価される。やる気は“前倒し力”で示すことが大事だと思います。
青野 例えば、仕事でトラブルがあって、お客さんがすごく怒っているとき、準備運動しているヤツがうちの会社にいるんです。「青野さん、この仕事、俺に回ってきますよね」と。トラブル処理は精神的にプレッシャーのかかる仕事ですから、普通の人は受けたくないはず。でも、彼はそこで手を挙げられる。やる気のあるヤツは上司も信頼するんです。
やりたくない人には
二度と仕事を頼みません
齋藤 オファーという感覚が大事だと思うんです。会社に入って自動的に仕事が割り当てられ、それだけをやればいいという時代はもう終わったんです。仕事ができる人は、社内であっても、この人に頼もうというオファーがくる。そこで来た球を打つ。すると、またオファーがくる。どんな仕事も一回一回の勝負だと思ってやっている人は覚悟が違います。
青野 今は会社にいても、自分の仕事を取りにいける人でないと生き残れない時代になったと思います。
齋藤 働くことについて、一流の人はみんな同じ感覚をもっていると思うんです。業種は関係ない。一流として働く人とそうでない人に分かれている。参考にすべき意見は、どの分野でもいいから、一流でやっている人の話を聞くことだと思います。
例えば、俳優の堺雅人さんは、やりたいことをやるのではなく、やるべきことをやるという職業観だそうです。「半沢直樹」は監督のもの、「リーガル・ハイ」は脚本家のもの、自分のものではないと言うんです。自分はやるべきことをやっているだけだと。
彼の職業観は、仕事の結果は次のオファーで決まるというものです。オファーがくれば、結果は良かった。オファーが来なければ、そこで役者の仕事は終わる。そういう職業観だから、オファーでしか自分の実力を測らない。高視聴率も自分の実力ではないと考えているのです。
青野 オファーを出しても「なんで僕がやらないといけないんですか」と言い訳する人がいます。そんな人には二度と頼みません。時間がもったいないからです。無駄な時間は会社にとって全部コストなんです。投げた球をすぐに打ち返せる人こそ価値が高くなります。
齋藤 仕事はどうしても忙しい人に集中していくんです。なぜなら仕事が早くて正確だから。同じ給料をもらっていても、そういうことが起こる。これからは普通の会社でもオファーのあるなしで給料に差がつくかもしれません。
僕たちプロでも
なかなか答えが見つからない時代にいる
青野 仕事にはスピード感が必要です。僕は社会に出てちょうど今年で20年になりますが、今は20年前に働いていた感覚の何倍ものペースでアウトプットを出さないといけません。もっと言えば、細切れでもいいから早くアウトプットを出さないといけない。まさにツイッターの感覚です。完成してなくてもいいから、まずは答えを出す。それをやっているうちに本当の答えが見つかってくる。このスピード感は、これから働く人にぜひつかんでおいてほしいことです。
齋藤 それがなぜ良いのかと言えば、修正がきくからです。一週間後の締切でも、2日間でアウトラインを出せば、「この方向性は違うよ」とアドバイスしてあげられる。
青野 1つのプロダクトをつくる開発期間は今、どんどん短くなっています。何をやっているのかというと、トライアンドエラーなんです。このトライアンドエラーの早い会社が勝つ。今は3Dプリンターのように、とにかく早くアウトプットできるような道具が揃ってきています。失敗覚悟でどんどん試して学ぶ。それだけ答えが見えにくい世の中になっているんです。プロでも何が売れるのか出してみないとわからない。
齋藤 試行錯誤と言いますが、別の言葉に言い換えると試行修正だと思うんです。試してやってみて修正する。それには高速試行修正というべきものが重要で、試行修正の高速回転を、あらゆる面で意識する。そうしたことを意識している人と、していない人は、ちょっと話を聞けばわかります。スピード感のない話し方をする人は、これから厳しいでしょうね。
相手の時間を無駄にするような
話し方はしない
青野 アメリカのベンチャーキャピタルにも「エレベーター・ピッチ」という言葉があります。エレベーターで上から下に降りる間に、自分の事業について魅力的に語れないと具体的な話を聞いてもらえない。エレベーターですから、もう本当の瞬間芸です。でも、それくらい自分の事業について、よく考えて、ポイントを的確に伝えられる技術がないと、いくら面白いことを考えていても、聞いてくれない時代になっているのです。
齋藤 仕事というのは、人の時間を無駄にしないことが基本です。話すときも、的確に要点からパッと伝える。よく日本語は英語に比べて結論を後ろにもっていきがちな言語だと言われますが、そんなことはありません。できないのは日本語力がないからです。
私は日本語しかしゃべっていませんが、要点から話します。一切困ったことはありません。日本語でも大事なことを5秒で言う訓練をすると、ずいぶんと改善されるのです。
青野 僕たちも営業でお客さんのところに行くと、話を聞いてもらえる時間は短いわけです。ドアを閉められる前に相手の心に入りこんでいかないとアウトですから、最初に3つくらいのポイントを立てて語れるようにしています。
齋藤 まずは食い込むことが大事でしょう。社内でも社外でもとりあえず食い込む。最初の一言、最初の質問で相手の意識をいかにとらえられるかにすべてをかけるのです。
(撮影:今祥雄)
*後編は12月24日に掲載します。