保育士の「人件費比率」が低い21施設の実名 社会福祉法人に比べ株式会社は低い傾向
それまで保育は公共性の高さから、私立の認可保育所は社会福祉法人しか設置が認められていなかった。しかし、待機児童が増えると、公立と社会福祉法人だけでは需要に追い付かず、設置者の規制緩和が求められた。ただ、人件費8割では営利企業にとって利益を出しづらい。そこで2000年、国の通知によって、株式会社などの参入と同時に委託費の使途が大幅に規制緩和されたのだ。
委託費の弾力運用は、費用の相互流用だけでなく、同一法人が運営する他の保育施設や保育関連事業への流用、新しく設置する保育所の整備費、積み立てなどにも回すことができるようになった。保育所の運営にとってある程度の自由は必要だが、それにより、人件費を搾取するようなブラック保育所を許す構造を作ってしまった。
保育所が実際にどのくらい現場の保育士に人件費をかけているのかを知る手がかりとなるのが、東京都が保育施設から集めている財務諸表だ。東京都は、2015年度から独自に保育士の処遇改善費「東京都保育士等キャリアアップ補助金」を始めている。この補助金を受けている保育所に対して、人件費比率や金額などを明記した財務諸表の提出を義務付けている。
そこには、「園長・事務員・事務長・用務員」を除く、「保育士・保育補助者・栄養士・調理員」などの保育従事者の人件費(以下、保育者人件費)という、現場の保育者に限った人件費比率が記されている(法定福利費は含まず、賃金部分で計算)。この財務諸表は、情報公開の開示請求の対象になることが前提とされている、全国でも極めて珍しい例となる。それを調べたところ、人件費比率が著しく低い保育所が多く見られた。そこには、大手が名を連ねる。
低い株式会社の保育士人件費比率
筆者が調査した東京23区にある私立保育所のうち株式会社、有限会社、学校法人などが運営する認可保育所254カ所の保育者人件費比率の平均値は42.4%、社会福祉法人立477カ所の平均は55.4%だった(2015年度)。株式会社は社会福祉法人と比べ10ポイント以上も人件費比率が低く、30%未満が21カ所もあった(表参照)。
本稿では、株式会社系について詳報する。保育者人件費比率が低い21施設、合計13社に対し、AERA dot.編集部と筆者はアンケートを実施した。回答期限までに回答があったのは、日本保育サービス、テンプスタッフ・ウィッシュ、ブロッサム、グローバルキッズ、エーワン、Kids Smile Project、ポピンズの7社だった。回答をしなかったのは、千趣会チャイルドケア、アイグラン、三幸学園、ワコム、サクセスアカデミー(現ライクアカデミー)、マミーズエンジェルの6社だった。ただし回答のあった社のなかには、内容が回答したというに値しないものもあった。各社の回答は文末の一覧の通り。