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今、急速に頭角を現しているベンチャー企業がある。創業からまだ5年しか経っていないがブルームバーグやロイターといった業界の雄を向こうに回しビジネス情報版のグーグルのような存在になろうとしている。その名をユーザベースという。
代表は2人。その1人、梅田優祐氏は葉山在住でサーフィンが趣味。もう1人の新野良介氏は美術史が趣味で、近くシンガポールに移住するという。この会社の経営方針は一風変わっている。出社時間もなければ、出社義務もない。服装も働き方も何もかも自由。にもかかわらず、会社のチーム力は抜群らしい。彼らは一体どんなビジネスをして、どのように組織を動かしているのだろうか。
*対談の前編はこちら
究極の自由を生み出す
7つのルール
―――そうした自由主義を唱える分、一方で求められるものとは何でしょう?
新野 自由主義であることは、結果責任と対ですよね。自由にやった分、自己規律をもって、結果責任を負っていくというのは、文化の表と裏のようなものです。
梅田 僕たちの自由は、かなり究極の自由にしていると思います。御存知のように出社時間も服装も決まりはないですし、出社義務もない。入ってくるメンバーがみんな最初は戸惑うほど、何もない感じなんです。
ただ、原則はあるんですね。7つのルールという原則があって、原則はちゃんと守りましょうと。あえてルールにしたのも、我々にはほかのルールがないからです。だからこそ、あえて7つの行動指針をルールと呼んで、つくったところがありますね。
新野 原則には忠実ですね。かなり徹底しています。
―――7つのルールとは、以下のものですね。
1. 自由主義でいこう
2. 創造性がなければ意味がない
3. ユーザーの理想から始める
4. スピードで驚かす
5. 迷ったら挑戦する道を選ぶ
6. 渦中の友を助ける
7. 異能は才能
梅田 7つのルールはかなり厳密にやる必要があります。とくに我々経営メンバーには、今年から「経営スタメン制度」というのをつくって、対象は執行役員以上なんですけど、どんな責任をコミットするかを最初に公表することにしたのです。
公表してみんなにコミットして、それができなければ、スタメンから落ちる、つまり、経営メンバーから落ちるという仕組みをつくりました。私たちももちろん落ちる可能性があります。みんなに公表しているので、逃げられないんです。
新野 経営メンバーだけでなく、社員たちも360度フィードバッグでかなり厳格にフェアに評価されます。先ほどの結果責任を見られているということです。自由である分、見えないことも多くなるので、がんばった人が報われないと、そもそもフリーライドの温床となるわけですから。
社員の自由は情報の透明性から
―――360度評価にすると、いろんな人に見られるのがプレッシャーになったり、誰を見て仕事をしていいのかわからなくなるという声も聞きます。ときには社内がギスギスすることもありませんか?
新野 自由主義は一見、良い話でワクワクする、人間性を尊重するように見えますが反面、強さが求められるんですね。自分で自分を律しなきゃいけないし、いろいろな評価に直接対峙しないといけない。
その評価というのは、突き詰めれば、自分の会社が市場から受けている評価が連鎖したものなんです。その意味で、社長だけが今まで背負っていたものを、社員1人ひとりも背負わなきゃいけないモデルになっています。
僕たちは、1人ひとりが情報を持ち、オーナーシップを持てば、今まで以上に意思決定が良質になるだろうという方向に賭けているんです。
―――チームづくりで気をつけていることは?
新野 まず7つのルールに適う組織にしようと気をつけています。自由主義とは各人が判断できる域を極大化することです。それには判断できるための情報を与えないと欺瞞じゃないですか。
例えば、社長しか知らない情報があるのに社員に同じようにオーナーシップを求めても、情報を知らないのに判断のしようがない。だからこそ、僕たちは会社の情報を極力オープンにしています。プライバシーやお客様と守秘義務があるもの以外は、すべて公表しています。僕たちの給料もみんな知っていますから。
フェアな評価システムと情報が透明であるというのは、かなり重要なところですね。情報が透明であれば、自分で判断できることが多いので、自分でオーナーシップを持って、結果を出した人が報われる。そういう仕組みをつくっています。
判断を求めるということは、その分情報の透明性がすごく大事なのです。
―――全社員が集まることはありますか?
梅田 週1回の全体会議のみです。これは絶対参加です。そこでできる限り情報を公開するんですね。ほかのチームは何をやっているか、どういうことを達成しているのか、どういう目標を立てて、どれくらいの進捗率か。それを全部みんなに公開して共有するというのが、全体会議の場です。
―――社員には外国人の方も多いようですね。
梅田 全社員80名のうち15~20%が外国人ですね。今、どんどん増えています。やはりオープンで自由な文化に魅力を感じてくれているからでしょう。
新野 7つのルールの最後に、「異能は才能」というのがあります。いわば、異なる背景、異なる価値観、異なる考え方を持った人が集まるほうが、価値があるということです。
こうした多様性や自由主義は、短期的に見ると組織には不合理に見えたりすることが結構あります。やはり均一の組織のほうが話も通じやすいし、自由だとコントロールを効かせられない懸念もあるでしょう。
でも、中長期的に見ると、多様性や自由主義のほうがそれぞれの固有の能力を出して、力を発揮できる感覚がある。結局、僕たちはそちらを信じている感じですかね。
なぜ仕事と家族の
ハピネスは違うのか
―――自由主義に辿りついたのは、これまでの人生経験が影響していますか?
梅田 僕はやはり学生時代でしょうか。普通のサラリーマン一家に育ちましたが、典型的な中途半端なヤツでした。大学でもサークルにも入らず、何もすることがなかった。結局、すごく暇だから、海外を放浪することにしたんです。
それがすごく楽しかった。行き先も自分で決め、好きな人たちと会って、何も強制されない自由な環境にいることで、自分もすごくクリエイティブになれた。楽しくクリエイティブになるには、自由な環境が必要だとそのとき思いましたね。それが原体験です。
そう思いながら社会人になったんです。ところが、いろんなものを強制され統制されました。ワイシャツは白、出社時間に必ず上司の前に行く……。
組織ではそれがプラスに働くのでしょうが、個人では全然クリエイティブになれない。楽しくなかったんです。その反面教師もあって、より楽しくクリエイティブに働くためには自由にしたいなと。今はその自由にチャレンジしている感じです。
新野 僕は大学時代に兄と焼肉レストランを経営していたときに、BSEが起きて、潰れかけて、死ぬような思いに遭ったんですね。
そんなとき最後の極限状態になると従業員に「一緒にやろうな」と約束しても、次の日には逃げていなくなってしまう。「一生懸命逃げずにやっていこうよ」と1人ひとりと向き合っても、自分がしんどいだけで従業員もついてきませんでした。
ならば、少なくとも互いに共通のものを見出そうというところから話し合いを始めたんですね。そこで「この店を再建させることを互いに約束しましょう」と投げかけると、それが共通言語になって次第に従業員たちがまとまり始めたんです。そのとき言葉の力をすごく感じました。原則に基づく経営をしたいというのはまさにそこから来ています。
その後、社会人になると、一生懸命働いた末に家族が崩壊したとか、そういう話ばかり聞くようになりました。こんなに一生懸命がんばっているのに、なぜ家族とうまくいかないのか。仕事のハピネスと家族のハピネスがなぜこんなに離れているんだとつくづく思いました。ならば、自分たちがいいと思う働き方を設計してもいいんじゃないかと。その2つが原体験ですね。
個人の人生を
デザインできる会社を目指す
―――かつて起業のインセンティブはおカネでしたが、今は働きやすい環境を求める傾向が強いですね。
梅田 僕たちがすごく大切にしているのは、ハッピーな会社になることです。この前、僕の子供がまた生まれたんですが、社員みんなから「おめでとう」とメールが来ました。それが僕だけでなく、ほかの誰かにまた子供が生まれたときにも同じようなことが起こる。そうした何気ない思いやりが連鎖していくことに、ハッピーを感じるんです。
そういう会社にしたいというのは、むろん昔の世代の経営者から見れば、小さな会社のくせに何を偉そうなことを言っているんだと思われるかもしれません。でも、僕はこの働き方で、きちんと結果を残して証明したいのです。
新野 創業者は何億円という個人保証をしているんだから、高い年収をもらってもおかしくない。でも、そんな会社がどんどん追い詰められていく例も多い。社長の力で組織を引っ張るわけですが、社長も次第に老いていくし、次世代にバトンタッチできなければ、事業拡大の可能性も少なくなっていく。
僕はそういう事態をずっと見てきたので、このモデルじゃないモデルでいきたい。それには優秀なヤツがどんどん入ってくるという組織モデルがいいわけです。ワンマンな会社ではなく、優秀なヤツが入る土壌をつくる経営をするということなんですね。
梅田 それは我々の創業の原点かもしれませんね。僕たちも最初はスティーブ・ジョブズみたいになりたいと思ったことがあったんですよ。でも、個人じゃ、さすがに無理だなと。
でも、僕と新野ほか経営メンバーが力を合わせれば、結構イケるんじゃないみたいな感覚があって、そこからチーム経営が生まれているんです。
そのときメンバーで決めたことが2つあります。1つは、何でも言い合うこと。もう1つはお互いをクビにできること。この2つだけを約束して始めたんです。互いがクビにできることは結果責任にもつながるんです。
新野 会社という組織形態をもっと進化させたら、もっともっとみんなの幸せに直結するんじゃないかと思っています。だから、働いた結果として、税金を払って、社会貢献するのではなくて、働くことそのものが家族の幸せにも直結し、社会貢献にも繋がっていくような、そういう組織体にしたい。そう考えると、結局個人の人生がデザインできる会社をつくるということが一番の原点になってくるんです。
(撮影:今祥雄)