日本はヒアリの息の根を本当に止められるか 台湾の専門家が駆除法をアドバイス

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台湾では年間平均2億円の対策費を投じ、根絶作戦を行っている。オーストラリアが2001年から2016年の15年間で約270億円を投じたことと比べると規模は小さいが、駆除手法などに工夫を凝らしている。

今年台湾でヒアリが発見された地点。北部に集中している(出所:台湾行政院)

その1つが、アリ塚に鉄パイプを打ち込み、液体窒素を流し込むというもの。ただし台湾の学術機関である中央研究院の王忠信氏は「あまり費用対効果があるとは思えない。アメリカでは熱湯を流し込む方法があり、その方がより簡単に駆除できる」と指摘する。

駆除手法はこれにとどまらない。ベイト剤(毒餌)の設置や、ヒアリ探知犬を導入し根絶活動を進めている。探知犬は1頭教育するのに200万円ほどかかるとされているが、日本の研究者の間でも早期発見につながる、と導入に意欲的な声も出ている。またドローンでの調査も検討されている。

啓蒙活動もユニークだ。専門家によってヒアリ人形やコスチュームが作られ、ヒアリの危険性を国民に周知している。さらにはヒアリの3Dパズルやトランプカードも販売されるなど、子供たちへの啓蒙も積極的に行っている。

「水際対策が何よりも大切」

こうした取り組みがあるにもかかわらず、なかなか根絶には結びついていない。今年に入ってからも桃園市や新北市、新竹県といった台湾北部でヒアリが発見された。

今後日本が取るべき対策は何か。「まずは水際対策が何よりも大切だ。ヒアリの女王は次々と散らばり、巣を形成することに長けている。一度港湾から出てしまうと、すべての巣を見つけ出すのは難しい。巨大な巣は、季節ごとに何百もの女王アリを生み出す」(中央研究院の王氏)

現在、日本では環境省がヒアリの調査範囲を、主要7港湾から68港湾に拡大している。全国の市町村や学校にヒアリに関するチラシも配布し、啓蒙活動も強化中だ。

ただ、これのみでは不十分だ。台湾のほか、ヒアリが発見されたコンテナの出発地点である中国との連携は欠かせない。水際で留まる今のうちに、中国南部や台湾で現地調査を行ったり、地元の研究者と防除方法を共有したりして、更なる拡大を食い止める必要がある。

若泉 もえな 東洋経済 記者

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わかいずみ もえな / Moena Wakaizumi

東京都出身。2017年に東洋経済新報社に入社。化粧品や日用品、小売り担当などを経て、現在は東洋経済オンライン編集部。大学在学中に台湾に留学、中華エンタメを見るのが趣味。kpopも好き。

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