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髙橋編集長がこの4~6月、毎週欠かさずに見ていたのが『重版出来!』(TBS系)というドラマ。新人の女性漫画編集者の奮闘を描いた人間ドラマは、同名の漫画をベースにしている。この漫画で原作者・松田奈緒子氏が描きたかった熱い人々とは、またストーリーに託した思いとは――。


松田奈緒子 まつだ・なおこ
長崎県から上京して一度は会社員を経験。7年間のアシスタントを経て27歳の時に『ファンタスティックデイズ』で『コーラス』(集英社)よりデビュー。現在、『重版出来!』を『月刊!スピリッツ』(小学館)にて連載中

漫画を支える裏方の人たちに
日が当たってなかった

髙橋 『重版出来!』のドラマ、本当に良かったです。毎回1回は泣いて、最終回も大泣きでした。そういう出版人は多かったと思います。原作者としてはどのような見方をされたんでしょう。

松田 私も一視聴者になって、いい話だなぁと思って泣いていました(笑)。脚本の最終稿の段階で、もうすでにいいんですよ。脚本家の方がちゃんと作品を読み込んでくださって、しかも俳優さんの魅力をわかっている。自分の漫画とはちょっと違うところもありますが、ドラマならではのよさがすごく出ていて、とても楽しめました。

髙橋 一部、漫画を先取りしたような内容もありましたし、逆に、ドラマでは描ききれなかった話や魅力的なキャラクターもたくさんありますね。私が漫画の中で好きなセリフのひとつは、高畑先生の「締め切りよ来い。葛藤の嵐よ吹け」。私も締め切りに追われる人間として、「こういう心持ちでいられたらいいのに……」と(笑)。(注:高畑一寸=売れっ子漫画家)

松田 私は月に1回の締め切り(『重版出来!』は「月刊!スピリッツ」にて連載)なので、高畑のような週刊誌に描く漫画家とは違うのですが、週刊だと毎週締め切りが来て、そのうえ単行本用に修正したりイラストを描いたり、いろいろな仕事がプラスされて休みがないんです。そのうえで「締め切りよ来い」と言える一寸はかっこいいと思います。

髙橋 私の場合、締め切り直前にいったん体の調子が悪くなるんです。それまで取材して聞いた内容がおなかにたまって、胃が張るような感じになる。それが書き始めるにつれ、どんどんデトックスされて、締め切り後はすごく元気になっている。

松田 へぇ~、おもしろい。

髙橋 ただ、締め切りが近づかないと書けません。

松田 あ、私も同じです。もう永遠にだらだらしますよね。締め切りがあるから何とかスケジュールが立つ感じです。

髙橋 それからもう一つ、高畑先生も漫画賞を狙っているというシーンで「最近は他人がおもしろいと言ったものを、おもしろいとみんな言うんだ」というくだり。これは好きなセリフというよりは、耳が痛いセリフです。売れるものを作らなければいけないのはもちろんですが、一方で、採算度外視で「私たちはこのテーマに価値があると思っている、だから書く」という姿勢も捨てたくない。漫画家さんも、描きたいものを描くのか、みんながいいというものを描くのかで悩まれることはあるんですか。

松田 デビューしてしばらくは、部数を考えないで、好き勝手をしても許される状態だったんですね、私がデビューした雑誌は。大御所の先生たちがバンバン稼いでくださっていたから新人が多少何をしても大丈夫という感じでした。ただ、私もベテランの域、中堅ぐらいに入ってきた時に、本当は先輩方と同じ仕事をしなければならない、稼ぎを出さなければいけないのに、そう簡単にはいかない苦しい時期があって……。

髙橋 苦しい中で、アイデアが生まれたということですか。

松田 そうですね。『重版』の前に『少女漫画』という作品を描いているんですけど。新人の少女漫画家が少女漫画界のことをあれこれ言う話で、当時は自分自身も不勉強で一方的に怒ってました。

『重版』を描く時に、担当編集の方から「実際の現場に取材に行きませんか」と提案していただいたんです。最初は本屋さんでした。そこで書店員さんに「私が売らなくてごめんなさい」と言われたんですよ。「松田さんの作品はすごくいい作品なのに」と。ああ、こんなに頑張って私の本を売ろうとしてくれる人がいるんだって衝撃を受けた。その後、印刷所、製版所にもお邪魔して、そこでやっぱり一生懸命やってくださる方がいらしたというのに初めて気づいて、それで『重版』という作品全体の世界ができてきた感じです。

「ついにわが業界も日の目を見る時が来た」とおっしゃった製版所の方もいました。漫画業界とか漫画作品にはこれまでも割と日が当たっていたのに、それを裏で支えてくださる方たちはそうではなかったと思うと本当に申し訳ない気持ちになって、もっと頑張らねばと奮起しました。

髙橋 出版界の仕事って内容を説明してもなかなかわかってもらえないことがありますよね。記者なら理解しやすいけど、編集者となると一気にわからなくなる。「アンタ一体何やっているの」って親から言われたり(笑)。

松田 それわかります。私は妹も主人も編集者なので、結婚する時に「妹と同じ仕事だよ」と言えば済みましたが、普通はそうはいかないかも。『重版』がドラマになったことで、多くの方に出版界の仕事を知ってもらって、最終的に出版業界の皆さんが結婚しやすくなるとうれしいですね(笑)。


漫画家デビュー後も
「うどん一玉」がぜいたくだった

髙橋 実は今回のインタビューの共通テーマが、「30歳ごろ何を見て情報収集をしていたか」というものなんですが……。松田さんは当時、どんな漫画や雑誌を読まれていましたか。

松田 30歳の頃って、すっごい貧乏だったんですよ。雑誌も何も買えないぐらい。住んでいたところの近くに大塚公園があって、敷地内に小さな図書館があったんです。そこに通っていて、置いてある雑誌をもう何でもいいから読んでいましたね。「SPA!」、「an・an」、「レタスクラブ」、ほかにもおじさんが読む雑誌とか、手当たり次第に。でも、それで情報収集するというより「あっ、こういうのが流行っているんだ」みたいな感じでした。

髙橋 デビューした後でもそれだけ大変なんですね。

松田 最初の単行本が出る前ですから、もうカツカツです。単行本が出て、やっと少し人間らしい生活ができるようになるんですけれども(笑)、それまでは、うどんの玉を半分に切って2食にするような生活を十何年続けていました。図書館はありがたい存在でした。

30歳の情報収集法を聞かれるということは、「週刊東洋経済」を30歳の方が読んでいるからということなんですか?

髙橋 いえ、実際の読者層はもっと上なんです。ただ今回、雑誌そのままの内容がスマートフォンで読みやすくなった「週刊東洋経済プラス」をスタートしたので、30歳ぐらいの方もぜひ知っていただきたいなと思って。

松田 なるほど。やっぱり最近はスマホで読まれる方が多いですか。

髙橋 はい。小誌は図や表やグラフの豊富な雑誌です。「東洋経済プラス」はそうした文章以外のコンテンツも読みやすい体裁となっていますので、ぜひスマホでの読者を増やしたいですね。

『重版』はかなり幅広い年齢層に読まれているようですが、創作の上で読者層を考えたりされますか。

松田 読みやすく、とは考えています。できれば本当にちっちゃい子から、おじいちゃん、おばあちゃんまで読んでもらえるといいと思うんですけれど。

髙橋 それができるのが漫画という表現ですよね。ビジネス誌はなかなかそこまではいきません。とはいえ、『重版』の中で編集者の鈴木さんが「畑中葵ちゃん」と名付けた想定読者像を自分の中に住まわせているように、私も自分なりの「週刊東洋経済」読者像があります。

たとえば、40人くらいの学級がある。何かもめごとが起き、ホームルームで話し合うことになった。そのとき「そもそも校則では…」と学級委員長的発言をするのは大部数を持つ「全国紙くん」。もう1人の全国紙くんは正義感に燃えて、大声で主義主張をする。そんな中で「東洋経済くん」はどこか冷めている感じ。と思うと、ふっと立ち上がり、ことの本質をずばっと突く発言をする、というタイプかなと。ちょっと妄想入ってますけど(笑)。

多種多様なビジネスパーソンがいる中で、小誌の読者は、雑誌の持つそんなキャラクターに似た感じの人たちなんだろうなと想像して、誌面作りをしています。

松田 眼鏡かけた感じのイメージですね。

髙橋 そんな感じですかね(笑)。そういう人がクラスにいないと世界は成り立たないという気持ちでやっています。

松田 漫画はLINEやスマホで無料で読める作品もある時代ですが、無料で読めるニュースサイトも今いっぱいあるじゃないですか。「東洋経済」のように、自分で書いて取材するのはものすごくおカネがかかると思いますが、無料のサイトにどうやって対抗するんですか。

髙橋 今は過渡期だと思っています。私も一時期キュレーションサイトにたくさん登録して、これで用は足りるかもしれないと思ったこともあります。でも、「まとめ」をいくら追っていっても、コリッとした源流にたどり着けない。そのもどかしさは、ネットニュースが普及すればするほど、みなさんの中で増幅しているのではないでしょうか。われわれはこれまで通り、いやこれまで以上の取材と記事づくりをしつこく続けていくしかないですね。

以前、米「ニューズウィーク」が紙版をやめますと宣言して、その後、紙版が復活しました。まれな例ですが、そういうこともありますから紙媒体はまったく捨てたものじゃないですよ。

松田 それは紙になじみのある私にもうれしい話ですね。私、身銭を切って本とか雑誌を買うと、必ず自分のためになる何かを見つけるんですよ。

髙橋 身銭を切ると……。

松田 書評を参考にして本を買ってみたらすごくおもしろいとか、雑誌のインタビューの一言が心に残ったりとか。無料の媒体で見ていると、ただ見ているだけになっちゃうこともありますね。それは、おカネを出すから、その分は取り返そうという気持ちが働いて、心がパカッと開くんだと思います。それが続いて身になっていくと思うんです。だから、おカネを出してもらえるものをつくり続けたいですね。


描く媒体が、漫画誌でも同人誌でも
どちらも「漫画家さん」

髙橋 『重版出来!』には漫画家志望者がたくさん登場しますが、実際はどうなんでしょうか。

松田 漫画家になろうと思えば、割と既成事実を持ってなれる時代ではあるんですね。紙の雑誌に載るということが一つの正解ということではなくなった。自分で好きな作品を日々描いている人も、同人誌を描いている人も漫画家さん、になります。本人の意向でどうしてもプロでご飯を食べていきたいという人は売れる作品を描こうとしますし、その一方で、ほかに自分の仕事を持ちつつ、どうしても漫画で表現したいものがある人は、同人誌で描くだろうし。

髙橋 小誌も介護の特集を組んだ際、「pixiv(イラストコミュニケーションサービス)」で介護漫画を書いている方を見つけて、表紙を書き下ろしてもらったことがあります。

松田 すごく細分化が進んでいる印象です。少女漫画、少年漫画、青年漫画という区分けのほかに、いわゆる「萌え」のような分野もありますし、機能漫画といわれるものもひとつの大きい分野になっています。「マンガで読む経済」というようなものですね。誰もが漫画を読むことに抵抗がない時代になりました。でも、皆がまんべんなく読むことと、皆が皆熱心に読んでいることとは別かもしれない。今は、漫画も読むけれど、ゲームもやるし、海外ドラマも見るし、という感じですよね?

漫画がもっと世界に出ればいいのにと思いますね。今は国内で1万部しか売れない作品でも、世界には同じ趣味の人がきっと、もっともっといるはずです。海外だと漫画はタダで読むものという文化らしくて、その辺が難しいところですが。

髙橋 『ONE PIECE』(集英社)だと各国語版がありますけど……。チェコの書店で見掛けたこともあります。

松田 今は、ものすごく売れている作品だけが翻訳されている状況です。マイナーなものももっと出て行ってほしい。

髙橋 さて、『重版』は今後どんな展開になりますか。

松田 中田伯というキャラクターについて、彼の物語をとにかく一回きっちりまとめたいですね。あと、主人公の黒沢がちゃんと成長しなきゃいけない。それと同時に、もうすぐ取材する3D印刷とか、新しい出版技術のことをきちんと描いていきたいですね。(注:中田伯=主人公が担当する新人漫画家。複雑な家庭に生まれ育つ)

髙橋 相当な長編になるんじゃないですか。

松田 人間ドラマの部分だけだったら、もういくらでも描けます。ただ、取材した内容をきちんと絡めて描きたい。本当に一番頭を抱える部分なんですけど、それをやるのが私の仕事なんだなと思っています。あと、テレビドラマで五百旗頭がすごく人気になったので、イメージを崩さないように気をつけて描かなきゃな、と(笑)。


編集後記
トップ画像は松田先生の描き下ろしです。黒沢心ちゃんがタブレットで読んでいるのは「週刊東洋経済プラス」のどの記事かな……?
こちらが大まかなイメージをお伝えすると、松田先生は、あっという間にラフイメージを描き上げられました。まっさらな紙にペン1本で命を宿らせる、その場面に遭遇し感激してしまいました。
ドラマの最終回、漫画賞を受賞した三蔵山先生がスピーチで「1人では獲れなかった」と言う場面。ごくごく普通の言葉なのに、雑誌作りの実感と重なってこれまた涙しました。単行本の奥付にも「チーム重版出来!」として、作画スタッフや宣伝担当など、この作品にかかわる方々の名前がずらりと並んでいます。これって珍しいことですよね?
ちなみにこの対談後、小誌は2回続けて重版となりました! バンザイ!
髙橋由里 たかはし・ゆり
1994年に東洋経済新報社に入社し、会社・業界担当記者として自動車、製薬、空運・陸運、ホテル、百貨店などを担当。『週刊東洋経済』編集部では「人」を中心とした記事づくりをベースに、幅広いテーマで特集を制作。2014年4月より女性として初めての編集長に就任。早稲田大学政治経済学部卒