鉄道の「自動運転」は車よりずっと進んでいる 新興国などで期待集める「新交通システム」

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パリのシャルル・ド・ゴール空港内で使用されている「VAL」

ここまで日米でのAGTの開発過程を紹介してきたが、AGTにはもうひとつ、欧州の流れもある。ボーイングと同じ航空宇宙業界のフランス企業マトラが、ポートライナーの3年後の1984年、フランス北部リールの地下鉄として実用化したVAL(ビークル・オートマティック・レジェール)だ。レジェールとは軽量という意味のフランス語である。

マトラのシステムはその後、欧州のみならず台湾や韓国などでも、地下鉄や空港内交通などに使われた。パリの地下鉄の自動運転車両にも同社の技術が採用されている。またルーアンのBRT車両は、一部の停留所で正着性(停留所との透き間を空けずバスを停車させる)向上のために自動運転を導入しているが、これもマトラの技術による。

しかしフランスでは同時期、LRTの導入も始まっていた。ストラスブールでは1989年の市長選挙で、VAL推進派とLRT推進派の候補が一騎打ちとなり、LRT推進派が勝利した。これが契機となり、以降のフランスは急速にLRT整備に傾いたことから、マトラは2001年にAGT部門をシーメンスに売却。以降の展開はシーメンスが行っている。

新興国では期待の交通機関

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東京臨海部の足となっている新交通システム「ゆりかもめ」

日本でもAGTの新規導入は、2008年に開業した東京都の日暮里・舎人ライナーが最後となっている。LRTがその後も各地で延伸されているのとは対照的だ。人口減少と高齢化が要因にあると思われる。後者に関しては、高所を走ることが利用しにくいというイメージにつながっているようだ。欧州で普及が伸び悩んでいるのも同じ理由だろう。

しかし、東南アジアをはじめとする新興国では人口は増加しており、既存の交通インフラでは需要に追い付かないことから、AGTのようなシステムが待望されている。現状では高齢化も問題となっていない。

さらに専用軌道を持ち踏切のないAGTは、地上を走るLRTやBRTに比べれば圧倒的に事故が少ないうえに、自動運転を導入すれば運行コストを大幅に抑えることも可能となる。今後のモビリティシーンを考えれば、このあたりは長所に数えられるだろう。

AGTが走り始めてすでに40年が経過しており、「新」交通システムという呼び名はそぐわないかもしれないが、最近になって自動車業界で話題になっている自動運転をすでに実用化している点など、いまなお未来的な部分もある。LRTとは違うフィールドで、今後も発展が見込まれるシステムだ。

(写真はすべて筆者撮影)

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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