もう1つの課題が抗菌剤だ。畜産では感染症の予防、治療などに抗菌剤が使われるが、不適切な使用は薬剤耐性菌を増やすおそれがある。その菌が鶏肉や環境を介して人間に伝わった場合、感染症の治療に使う抗菌薬が効きにくくなる可能性があるということだ。飼育環境を改善して病気の発生を抑えることは、抗菌剤の使用機会を減らす上でも意味がある。
24年に学術誌『Poultry Science』に掲載されたオランダの研究は、13~21年の約11万3000鶏群を分析した。成長が比較的遅く、飼育密度も低い生産方式では、従来方式より抗菌剤による治療が少なく、死亡率や足裏の病変も低かったという。成長速度だけの効果を切り分けた研究ではないが、鶏の育て方を見直すことが健康管理にもつながると示唆している。
厚生労働省の「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2025」では、2023年に鶏から分離された大腸菌の53.5%が、人の細菌感染症や皮膚病などの治療にも使うテトラサイクリン系抗菌薬に耐性を示した。飼育環境を改善して疾病を減らし、抗菌剤の使用を抑えることは人間の食の安全を守る上でも重要である。
日本への国際評価は「7段階で最低の“G”」
ここで考えたいのが、アニマルウェルフェア(動物福祉、AW)である。動物を単にかわいがるという話ではない。動物が置かれた環境や健康状態に配慮し、不必要な苦痛やストレスをできる限り減らすという考え方だ。畜産では、こうした考え方に基づく飼養管理が重視されている。
国際動物保護団体ワールド・アニマル・プロテクションが20年に公表した「Animal Protection Index(動物保護指数)」では、日本は畜産動物の保護に関する法制度について、AからGまでの7段階で最低の「G評価」だった。日本全体の総合評価はEであり、Gは畜産動物保護の項目についての評価である。畜産動物を守る法的な仕組みが弱いと指摘されたのである。
農林水産省は2023年に「ブロイラーの飼養管理に関する技術的な指針」を示し、適切な飼育密度や換気、敷料の管理、健康状態の観察などを求めたが、これは基本的に事業者の自主的な取り組みを促す指針であり、EUのように飼育密度の上限を一律に法令で定めたものではない。
欧州連合(EU)は、2007年の肉用鶏保護指令で、鶏舎の飼育密度を「原則1平方メートル当たり33キログラム以下」とした。換気や管理記録などの条件を満たす場合は39キログラム、さらに厳しい条件の下では42キログラムまで認める。羽数ではなく、鶏の体重の合計で密度を測る点が特徴だ。フランスにはこの指令に基づく国内規制がある。


※ログイン後、コメント入力が可能です。