一方、日本にはEUのような飼育密度の法的な上限規制がない。農林水産省は23年に技術的な指針を示したが、飼育密度について具体的な数値の上限は設けず、飼養者の判断に委ねている。日本の飼育密度は1平方メートル当たり50~56キログラム程度が一般的との推計がある(動物保護団体のアニマルライツセンターなどによる。公的な統計はない)。
さらに欧州では、成長の緩やかな鶏種や、飼育密度を抑えた生産方式を選ぶ動きもある。食肉の価格だけでなく、どのように育てられたかを商品選択の材料にする考え方が広がっている。生産コストの上昇という課題はあるが、価格の安さだけを競う仕組みを見直す契機にもなる。
食卓に並ぶ前、50日間の「命」を考える
日本の養鶏業は、安全で手頃な鶏肉を安定供給するために努力を重ねてきた。その成果を否定するものではない。
ただ、生産効率を優先した結果、食の安全に関わる課題が生じ得ることは無視できない。飼育密度や成長速度を見直し、脚の健康や床の衛生状態を重視する取り組みには、生産者だけでなく、食品メーカー、小売業者、外食産業、消費者の理解も欠かせない。
道路に投げ出された鶏たちは、食肉になる前には一羽一羽が生きている動物なのだと、私たちに思い出させた。わずか50日ほどで体を大きくし、成鳥になる前に出荷される。その育て方が鶏の健康に負担をかければ、疾病管理や抗菌剤の使用を通じて食の安全にも関わり得る。
鶏肉の値段だけでなく、その鶏が生きた50日間にも目を向けたい。
※1 「ブロイラーの盲腸内容物及びチラー冷却後の鶏肉(胸皮)のカンピロバクター保有状況の把握」(令和5年度)(農林水産省消費・安全局食品安全政策課)
※2 08年、学術誌『Applied and Environmental Microbiology』
※3 宮城県「ブロイラーの趾蹠皮膚炎と廃棄率並びにカンピロバクター属菌保有率の関連」(令和3年)


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