合格発表の11月8日は、奇しくも娘の誕生日でした。合格発表を見てから家族でお祝いしようと計画していたその日、アクセス集中で合格発表のサイトがなかなか開かず、みんなで直接掲示板を見に行くことになりました。ただ、杉原さんを待っていたのは、残酷な現実でした。
「掲示板の前で娘たちが『パパ……ない!』と泣きそうな顔をしていました。立っているのが精一杯でした。もう、消えてしまいたかったですね。忘れられない人生のワンシーンのぶっちぎり第1位です」
不合格で立ち直れない日々が続いた
高い合格率を誇る予備試験合格者の中で、不合格者になってしまった杉原さんは、ここからいろいろな人に電話して回ります。社長には「すみません、もう1年仕事させてください」と頭を下げ、発表前に事務所で業務研修させてもらった弁護士にも「落ちていました」と連絡しました。
やっと終わると思っていたのにまた1年やり直さなければならない、その現実を受け入れることが、なかなかできませんでした。
「自分が嫌になってしまって、自暴自棄になってしまいました。『結局この程度だわ、所詮焼き鳥屋だもん、俺』という思いが頭の中から抜け出せなくなって、しばらく何もできなかった時期が続きました」
そのとき支えになったのが、事務所で業務研修させてもらった弁護士の存在でした。法律とはまったく関係のない本を渡され、それについての感想文を提出するよう言われるなど、一見受験勉強とは無縁のやりとりが続きます。しかしその時間の中で、杉原さんは少しずつ自分を取り戻していきました。
「先生は『いろいろ悩んでいるけど、何が問題なの?』と私に問いかけてくれていたんです。先生も忙しいのに、私のために時間を割いていろいろな話をしてくださいました。思えば、落ちても妻は笑顔で文句の一つも言わず、子どもたちも『大丈夫だよパパ、また来年受かるよ』と一生懸命応援してくれていました。
自分は元気だし、応援してくれている人もいます。7年勉強してきたことは何も無駄になってないし、単にまだ自分が足りていなかっただけの話だって、そう思えるようになっていき、最終的には受験できること自体がありがたいなって感謝するようになりました。なんて自分は恵まれているのだろうと」
気持ちが切り替わった翌年の受験本番、杉原さんは問題用紙を前に今まで感じたことのない感覚を得ます。
「いつもはつらくて仕方なかった試験が、楽しかったんです。この問題を作った人は何を聞きたいんだろう、どういうことを書いてほしいんだろうと考えながら、それに対する自分の考えを試験官と会話するように答案を書いていました。それで合格することができました。接客と一緒だったんです。大将が言っていた『目の前の人を喜ばせろ』とまったく同じことを、試験でやっていたんだと気づきました」
こうして杉原さんは、8年間の司法試験浪人を終えることができました。


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