近年、日本では終身雇用は一般的ではなくなり、非正規雇用の人が増え、金銭的にも精神的にも「ギリギリ」の状態で生活せざるをえない若者が増えました。これらが改善しなければならない問題であることは確かです。
そうはいっても、自らの立場や生活に対して感じている不満を「日本にいる外国人(赤ちゃんも含む)」にぶつけたところで、自分たちの生活がよくなるわけではありません。
ドイツでも「自分の生活が苦しい人たちの不満が外国人に向けられる」という状況がだいぶ前から続いています。具体的には、旧東ドイツだった地域は、旧西ドイツがあった地域に比べ今も雇用の数が少なく、住民の平均収入が低く、失業率が高めです。
生まれた時からずっと現地に住んでいる高齢のドイツ人の中には「東ドイツが共産圏の時代から、国のために日々一生懸命働いてきたのに生活が厳しい。体制が変わってから(=ドイツが統一されてから)国は新たにやってきた中東からの難民ばかりを優遇し、昔からドイツにいる自分達はないがしろにされている」と感じている人が多いのです。
それが極右政党AfD(Alternative für Deutschland、「ドイツのための選択肢」)の支持に拍車をかけており、2026年10月にはドイツ東部のザクセン・アンハルト州でAfDの所属のトビアス・ラウシュ氏が州議会議長に選出されました。AfDの議員がドイツの州議会議長に就任したのは「悪い意味での史上初」ということでドイツで話題を呼んでいます。
アウシュビッツを訪れた芸能人
産院の赤ちゃんに対するヘイト騒動が起きる数日前の土曜日夜、筆者は「サンドイッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日)を見ていました。同番組でサンドイッチマンはアウシュヴィッツを訪れています。
番組ではアウシュヴィッツでの残虐行為につながったのはヒトラー1人の思想だけではなく、特定の人に向けられた「●●は出ていけ」という「社会にもともとあったヘイト」が原因だったことが明確に伝えられていました。「こういうことが広く伝わるのは大事なことだな」なんて思っていたところでした。
産院の騒動について、筆者は「単なるネットの騒動」だとは思っていません。「人種」なるものを根拠に、赤ちゃんを相手に「この国から出ていけ」と言ってしまう人が多いのは日本にとって深刻な事態です。
日本に住む人の大半は「黒人」ではないので、黒人の赤ちゃんにヘイトが向けられても、自分のことのように真剣にとらえる人は少ないかもしれません。ここで筆者は2つのことを思い出しました。
1つ目は、ナチス時代に反ナチ運動を主導したドイツのルター派牧師のマルティン・ニーメラー(1892~1984年)の言葉です。世界的に知られている「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」という詩は彼の言葉に由来します。
この詩の基本的な内容は、ナチ党が迫害する人の対象を徐々に拡大していく中で恐怖を感じつつも「自分は当該集団の関係者ではないから」と見て見ぬふりをして過ごしていたら、いざ自分が迫害対象になった時には社会に声を上げてくれる人がもう誰もいなかったというものです。


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