GMOインターネットグループの熊谷正寿代表が、傘下のFX向けクラウドサービスへの不正アクセスをめぐって初めて記者会見を開いた。
実に3時間半にわたった会見があらわにしたのは、事件の原因究明や今後に向けての前向きな対策ではなかった。インターネットを本業とする企業グループのトップでありながら、事件の本質から目をそむけるかのような創業者の姿だった。
謝罪の場で語られた「命の砂時計」
11月2日の午後3時半、東京都内の会見場に約150人の報道陣が集まり、さらにそれよりも多くの人々がネット中継を見守った。GMOインターネットグループの熊谷正寿代表は深く頭を下げ、「このたびはお客様をお守りすることができず誠に申し訳ありませんでした」と述べた。
傘下の「お名前.com デスクトップクラウド」で提供される、FX取引用仮想コンピューターが乗っ取られ、利用者のFX口座で意図的な損失を出させる取引が繰り返されたうえ、80億円の身代金まで要求された事件である。
発覚から2週間近く、熊谷代表はX(旧ツイッター)で発信を続けてきたが、記者の前に立つのはこれが初めてだった。何が起き、なぜ防げなかったのかを説明し、損なわれた信頼を取り戻す。会見の第一の目的はそこにあったはずだ。ところが謝罪と経緯の説明が30分ほどで終わると、熊谷代表は「PC操作がございますので」と着席し、「本件を通じて得た知見」と題し、まるで第三者かのように事件を俯瞰した感想戦のようなことを第2部として行ったのだ。
熊谷代表が語ったのは、ChatGPTの登場以来、技術は「日進月歩ならぬ秒進分歩」で進み、侵入犯の武器は「以前は拳銃でしたが、今は機関銃」というほど強力になり、たとえ中学生でも簡単に攻撃者になれてしまう時代が来た――。「統計データに基づくものではありません」と自ら断ったうえで、グラフを映しながら30分あまりAIの脅威を語り、最後は「僕は命かけてこの産業を多くの方の笑顔のツールにしてから死ぬつもりです」と声を詰まらせた。
質疑で、なぜ謝罪の場でAIや理念に時間を割いたのかと問われると、「命の砂時計を何に捧げているのかというのが人生であり、私はインターネットとこのグループに捧げています」と答えた。
3時間半の大部分を使って語られたのは、事件の原因ではなく、質問に対する正面からの答えでもなかった。熊谷正寿という個人の人生観、今回の侵入事件を受けての個人的な想いだった。そして、その語りの後ろから浮かび上がったのは、インターネットを本業とするはずの会社のトップとは思えないような姿だった。
3時間半のあいだ、熊谷代表は「命の砂時計」という言葉を何度も口にした。その間も、被害に遭った利用者たちの砂時計は落ち続けている。被害者たちが知りたかったのは、熊谷代表が何に人生を捧げているかではない。自分の“お金の鍵”が、なぜ守られなかったのかだ。

