私たちは、自分にとって大切なヒト・モノ・コトに強い感情を抱きます。熊谷社長の表情からは、長年にわたって大切にしてきたインターネット産業への思いが、今回のインシデントによって深く傷つけられた様子がうかがえます。「安全なインターネット環境を守りたい」という強い意志と、その信念に反する事態が自社で生じてしまったことへの悔しさが、表情に表れているように思われます。
こうした発言や表情からは、インターネット産業の発展に長年携わってきた経営者としての使命感が伝わってきます。また、サイバー犯罪の高度化や社会全体が直面する危機についての問題提起には意義があり、自社のセキュリティー対策における方針転換の遅れを認めた点も、今回の問題に対する反省として評価できます。
しかし、ここで考えたいのは、今回の記者会見の目的です。
今回の記者会見の主目的は、あくまでも自社で発生したインシデントについて説明責任を果たすことにあるはずです。その場で、自社の経営理念や経営者としての信念、さらには業界全体の課題にまで話題を広げることは、説明の焦点が今回のインシデントそのものから離れ、結果として説明責任が十分に果たされていないという印象を聞き手に与えかねません。熊谷社長の発言や表情から伝わる使命感が真摯なものであったとしても、会見の構成によっては「ズレ」と受け取られてしまいます。
また、涙が見られたのが謝罪の場面ではなく自らの理念を語る場面だったことは、聞き手に「何に対する涙なのか」という問いを残しかねません。
第3のズレ:経営陣の説明と、聞き手が問いたかったこと
第3部は質疑応答です。さまざまな質問がなされましたが、とくに多かったのは、24年に専門家からセキュリティー上の改善点を指摘されていたにもかかわらず、対策が十分ではなかった理由や、不正アクセスを約2カ月間検知できなかった原因についてでした。


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