これらは、第1部で十分に説明されなかった問題です。ここに3つ目の「ズレ」があります。経営陣が説明したいことと、記者たちが説明を求めていることとのズレです。
経営陣は、今回のインシデントの重大性を認め、被害者への補償や再発防止に向けた取り組みを説明しました。しかし、記者たちが繰り返し確認しようとしたのは、なぜ問題を未然に防げなかったのか、なぜ侵入を長期間検知できなかったのかという、過去の判断と管理責任に関わる問題です。つまり、経営陣が「これから何をするか」に重点を置く一方、記者たちは「なぜこの事態を招いたのか」を問うていたのです。
このズレは、第2部で示された熊谷社長の使命感と対比すると、より鮮明になります。安全なインターネット環境を守りたいという信念が強いからこそ、その信念に反する事態がなぜ自社で生じたのか。聞き手が求めていたのは、まさにそのいきさつについての納得できる説明だったと考えられます。
「伝えたいこと」と「伝わること」は違う
会見全体を振り返ると、熊谷社長の表情からは経営者としての強い思いが感じられ、他の登壇者からも問題に真摯に向き合おうとする姿勢がうかがえました。しかし、今回の会見では、3つの「ズレ」が見られました。謝罪の言葉と表情のズレ、経営者の使命感と記者会見の目的とのズレ、経営陣の説明と記者たちの関心とのズレです。
これら3つのズレが重なることで、経営陣が示そうとした誠意や責任感、問題に向き合う姿勢が、聞き手に十分に伝わりにくくなっていたように思われます。今回の記者会見は、発信する側の誠意や熱意が、必ずしも受け手の納得や信頼に直結するわけではないことを示す事例と言えるでしょう。


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