有料会員登録
キャリア・教育 #その仕事、人間にしかできません —AI時代に光る、五感と経験のプロたち

「売るために、あえて客を減らす」—実演販売のプロが明かす意外な戦略、《買いたくなる空気》はどう作られる?

9分で読める
ジャンプ中澤さん
2017年、調理系商品の実演をするジャンプ中澤さん。頭には天ぷらの食品サンプル(写真:ジャンプ中澤さん提供)
2/4 PAGES
3/4 PAGES
4/4 PAGES

ではその「買いたくなる空気」は、具体的にどう作るのだろう。じっと目を見るとか……?

「いや、その場でお財布からお金を出す場合、目を見ると逆にプレッシャーになります。目線と手はスポットライト。いきなり顔にライトを浴びせられたら嫌ですよね? なので、お客様とは目を合わさず、スポットライトは必ず商品にあてます。お客様に商品を渡すときも、圧を感じさせないように体を離しますね」

逆に、展示会のような場は、来場者が積極的に情報を集めに来ているので、目をしっかりと見て「見ないと損ですよ!」とアピールする。商品を見せるときも「これすごいんですよ」と体ごと近づけていくそうだ。

「ゲームと同じで、距離と対象で武器を使い分けるイメージですね。使い方とアイデアで難局を突破していくわけで、こんなにワクワクするゲームはないと思ってます(笑)」

通販番組は「ラスボス」を最初から登場させる

対面での実演は、客の反応がすぐに返ってくるので、臨機応変に対応できる。そうなると、通販番組はどうなるのだろう。相手の反応が見えないですよね。

「まったく見せ方が変わりますね。実演販売は序破急の流れで商品を紹介するのが基本ですが、通販番組は最初から『これが何か』がわからないと、チャンネルを変えられてしまいます。冒頭から一気に、『○○も○○もできる商品のご紹介です!さぁ皆さん、こ~んなお悩みありますよね~?』と全部言う感じですね」

中澤さんが通販番組の口調でしゃべってくれるので、思わず「本物だ……」と声が漏れてしまった。中澤さんによると、「スタジオに置いてあるもの」にもちゃんと意味があるという。

「駆け出しのころ、洗剤の紹介で失敗したことがあるんです。あんな汚れも、こんな汚れも落ちると実演したあと、最後に油まみれの換気扇を取り出して、ギトギトした汚れを落としたんですね。油まみれの換気扇は『ラスボス』だからと、クライマックス感を演出したつもりが、思ったより売れ行きがよくない。テレビ通販はザッピングされるので、ラスボス登場まで待ってもらえなかったんですよ」

なので油まみれの換気扇は、最初から見えるところに置いてあるのだ。「あの汚れが落ちるの?」という期待感で、視聴者を引っ張る役目を持っている。

「テレビは音を消して見ることもあります。デモンストレーションを多めに用意したり、ビフォーアフターがわかるものを並べたり、見ただけで何をしているのかわかるようにするのもポイント。視覚にも聴覚にも、全方位から訴えかけないといけません」

ビール会社の商品PVにも出演(缶のデザインは撮影当時のもの)(写真:ジャンプ中澤さん提供)

クライアントが目指す「ゴール」によって、展示会や通販番組などの「媒体」によって、そしてその場の「空気」によって、実演販売士が求められることはクルクルと変わる。こんなにも事前の準備と、当日の対応力が求められる仕事なんですね。

「現場は一期一会。同じ顔ぶれが揃うなんてことはありません。思いついたものを試して、うまくいったものを続けて、トライアンドエラーを繰り返しながら今に至っています。まぁ、それが楽しいんですけどね(笑)」

後編では、中澤さんが声優や歌手を経て実演販売士になった経緯や、「対面の価値が上がっている」と感じる理由など、人間にしかできない仕事をさらに深掘りする。

【続きを読む】「情報は忘れても、感情は残る」——実演販売士がAI時代に「対面営業の価値が上がる」と語る理由

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

キャリア・教育

人気記事 HOT

※過去1ヶ月以内に配信した記事の閲覧数