AI倫理というと、差別を避ける、個人情報を守る、事故を防ぐといった「AI利用のリスクを抑えるためのルール」と捉えられがちだ。もちろん、それは重要な役割である。
しかし、AIと人間の双方が同じ仕事を担える領域が広がるほど、AI倫理が持つもう1つの役割が際立ってくる。それは、「どちらに任せるのが望ましいのか」という価値判断を、議論可能な形にすることである。
「どこまで任せるか」を考えるためのAI倫理
哲学者ルチアーノ・フロリディは、AI倫理をめぐるさまざまな議論を、「善行」「無害性」「自律性」「正義・公正」「説明可能性」という5つの原則に整理している。
先ほどの融資審査なら、AI倫理の5原則から、以下のような問いに置き換えられる。
・無害性:誤った判断などによって、人に危害が生じ得るか。生じるなら、どう抑えるか
・自律性:AIへの委譲によって、人間が意思決定を問い直す余地が失われないか
・正義・公正:特定の属性を持つ人々に不利益が偏らないか
・説明可能性:判断を受ける人が、その理由を理解し、異議を申し立てることができるか
こうした倫理的な語彙を使えば、「重要な判断だから、なんとなく人間がやったほうがよい」といった感覚的な議論を、具体的な論点に分解できる。
ただし、倫理原則をチェックリスト化し、すべて満たしているか確認すればよい、という単純な話ではない。AIへの委譲によって、これまで金融サービスを受けにくかった人にも融資の機会が広がるのであれば、善行という観点では望ましいかもしれない。
一方で、判断を問い直す手段が失われれば、自律性や説明可能性の面では問題が生じる。これらが価値判断にかかわる問いである以上、価値同士が衝突することは珍しくない。
AI倫理の役割は、こうした価値の衝突を明らかにし、そのトレードオフを議論できるようにすることにある。


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