学者の資質を決める「引用の作法」
舟津:今後の専門家の方向性として一つ提案したいのは、学術のあるべき姿に戻る、ということです。専門家の世界やアカデミックなコミュニティで大事だとされてきた原理を貫くべきだと。
その一つが引用です。引用は決定的に重要なアカデミックの作法で、私は他の人の言ったことをちゃんと読みました、知っています、その上で乗っかっています、そしてこれは私の言葉ではなく誰々が言ったことです、という表明であり、すごく意味がある原則です。本書で指摘されている間違い方のパターンの一つは、引用ができていないことですよね。
與那覇:同感です。短文で投稿するXでは、相手を叩く上で都合のよい箇所だけを「切り取り」して流通させ、印象操作に使う手法が横行しています。しかも、学者を含むプロの書き手がやっている。そうではなく、相手の主張の「全体像」を捉えた上で、しかしあなたのこの部分に同意できない、と根拠を添えて示すのが本来の学問的な批判です。
平成の半ばまでは、政治家でさえ違いました。2007年、米国の対テロ戦争を自衛隊がどこまで後方支援するかをめぐり、民主党の小沢一郎代表と自民党の石破茂さんが、ともに岩波書店の『世界』に寄稿して論争したことがあります(11・12月号)。どちらも保守系で、同誌とは距離のある人でしたが、そうして公正な形で議論しました。究極の人気商売である政治家さえ、身内を動員して印象操作で勝とうとはしなかった。



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