女性は“最後の手段”だと思っていた「生活保護」という言葉が出たことにショックを受けながらも、相談員の勧めに従い、障害福祉課の窓口へ行く。すると相談室に通され、生活保護課の担当者と面談をした。
女性はうつ病で失業したこと。主治医からまだ復帰は無理だと言われていること。それでも、いつまでも親を苦しめているのに耐えられないこと。そして発達障害のことなどを打ち明けた。
担当者は、説明を紙に書きながら話した。口頭での会話や聴覚情報処理、ワーキングメモリーに難を抱えやすい女性にとって、ありがたい対応だった。
区役所で支援センターと同じ配慮をしてもらえるとは思わなかった女性は、「特性を理解してくれていることが何よりもありがたかったです」と感激した。
生活保護課の担当者は、
「親御さんにはこんなふうに伝えたらどうですか?『自立するために生活保護を利用しようと思うので、仕送りはもう大丈夫です』と。親御さんも、ただ援助を断るだけだと心配するでしょうけれど、自立するためと言えばわかってくれると思うんですよ」
そう言って、台詞を書いて渡してくれた。生活保護の申請をめぐる厳しい対応について耳にしていた女性は、担当者の姿勢をこう振り返る。
「生活保護と言えば、家族の扶養を強要されて、水際で断られることが多いと聞いていましたが、その担当者さんは、あくまで『私が病気を治せる状況になること』を一緒に考えてくれました。それは私にとって、溺れているところに手を差し伸べてもらったようなものでした」
女性は結局、生活保護は利用せず、現在は障害年金を受けながら、アルバイト生活をしている。
「親からの援助を断り、障害年金の申請が通ったことで経済的・精神的に余裕ができました。何より親への申し訳なさから解放され、病状は目に見えて改善しました」
と女性は語る。回復後に始めたアルバイトは7年目に入った。現在は生活保護を受けずに生活できているが、いざというときは生活保護という選択肢があること、一緒に考えてくれる人がいることは、生きる上での支えだという。
自立は依存先を増やすこと 一旦休んで回復していい
「自立とは、依存先を増やすことだと思います。不安定な現実の中で、実際に制度を利用するかどうかに関わらず、『いざとなったら頼りにできる場所、制度』が複数あることで、人は安心して生活を営めるのではないでしょうか。
生活保護という制度があるから『死ぬか、働くか』の二択ではなく、『一旦休んで回復していい』という三つ目の選択肢が持てるのだと思います」
生活保護を受給している関東在住の男性(28)も「生活保護がなかったら、一番しんどい状況で親に経緯を説明しなければならなかった。明日を生きていくための食費や家賃の心配をしなくていいという、生活面でも精神的にも安定した状態で説明できたのは良かったし、制度がなければ経済的に困窮し、精神的に不安定になり、通院も服薬も継続できず、病状が深刻になっていたと思う」と話す。
これまで誰にも本音や不安を言えなかった男性だが、「悩みや不安は尽きず、死にたくなったときに気持ちを吐き出すことができるということが、とても大事だ」と気づいたことで、徐々に両親や友人に吐き出せるようになったという。
生活保護は、働けなくなった人が生き延びるためだけの制度ではない。生活の基盤を整え、治療や休養の時間を確保し、再び自分の人生を考えるための制度でもある。
生活保護を利用すること、そして、いざという時に利用できると知ることは、「死ぬか、働くか」という二択に追い詰められた人が、いったん立ち止まるための支えになり得る。
(ライター・旦木 瑞穂)

