岩尾 おっしゃるとおりで、私見を一言で言うならば、平成の時代にカネが強くなり、ヒトが弱くなりすぎました。原因は、カネが国境を越えて移動する「グローバル化」、カネで何でも買える「資本主義」、金本位制における金のような裏付けを失った「変動相場制」という3つの要件がそろい、カネの価値が大きく上下するようになったことにあると考えています。
じつはこれは、人類史数十万年のうち、直近のたった40〜50年のあいだだけで起きた未経験の状況なんです。さらに日本は特殊で、この状況でデフレが20年続き、相対的にカネの価値が5倍近くまで跳ね上がりました。円の価値が上がり続けるなかで、日本企業は海外に投資すれば楽にカネを生めるようになった。反対に、カネがかかる国内の人件費や研究開発費を削り、「ヒトよりカネが大事」という投資思考が蔓延したのです。デフレ下の平成のスター経営者といえば、昭和のころの人間味あふれるリーダーと違って、「カネに好かれる経営者」「投資家受けする経営者」が思い浮かぶことでしょう。
野中先生がおっしゃる「3つの過剰」は、まさにカネを守ろうとする日本企業の姿勢そのもの。イノベーションはヒトからしか生まれないので、ヒトを大切にしない企業では当然、イノベーションも生まれなくなったということだと思います。
GAFAMと比較して、一律に「日本企業はダメだ」と断じる必要はない
野中 もちろん、すべての日本企業が本来の経営のあり方を見失ってしまったわけではありません。日立製作所やソニーグループ、あるいはエーザイなど、大企業でありながら危機を乗り越え、自己変革を達成した企業があることを評価すべきです。中小企業にも、世界的に優れた技術をもつ企業が多くあります。
岩尾 私も、「すべての日本企業はアメリカに比べて遅れている」というのは悲観しすぎだと思います。事実、海外の先進的な企業家やコンサルティング・ファームは、いまも日本発の経営技術を学んでいるのですから。

