キッチン側の壁に採用したのは、オーストラリアの塗料ブランド「ヘイムスペイント」。色味のよさだけでなく、左官で仕上げたかのような凹凸を感じるテクスチャーで、見る角度によってもニュアンスが変わり、上質な雰囲気になっています。さらに腰壁は全面タイルを採用したというこだわりぶり。
床材に選んだのは、グレー系の「マーモリウム(リノリウム)」。塩ビなどの合成樹脂とは異なり、天然由来の原料からつくられる素材です。高い耐久性や環境負荷の少なさに加え、抗菌・抗ウイルス性能の高さから医療・教育施設で重宝されています。素材自体が高価で施工の難易度も高いため、価格面で導入のハードルは上がりますが、「さらさらとした肌触りで、ビニール床よりも暖かいんです」と川内さんは語ります。
こだわりは素材選びにとどまりません。寝室として使用していた洋室(間取り図内の「洋室2」)とLDKを仕切る壁を柔らかな曲線にしたり、動線のよさを確保しながら生活感を排除できるパントリーを設けたり。さらに広々とした玄関土間、造作の洗面台を帰宅動線に設置するなど、間取りのこだわりも随所に。古い家では課題となりやすい断熱性能にも配慮し、樹脂製のインナーサッシ(内窓)も導入しています。
ヴィジュアルの美しさだけでなく、間取りの使いやすさ、コストを押し上げてしまいがちな壁や床の質感までも諦めなかったおかげで、川内さんにとっての理想的な住まいになりました。リノベーションにしっかり予算をかけたことの成果でもあります。
初めての住宅設計にあたり、先輩建築家の内覧会やメーカーのショールームに足を運ぶなど、事前の勉強に力を入れたという川内さん。「ヘイムスペイントは講習を受けて自分で塗りましたし、寝室の壁の一部はあえて構造壁をそのまま残してラフな仕上げにしています。また扉をなくし、カーテンでゆるく仕切ったことで、結果的にその部分がコストカットに貢献しています」
予算を削るための苦肉の策というよりは、「なにが自分にとってよりよいか」を突き詰めた選択からの結果。インナーサッシに関しては、国の補助金制度も賢く活用しています。
自分が住むための家であり、日々のQOLを上げるためのリノベーション。大きな妥協はなかったようです。
ちょっと腕試しのつもりが、とんとん拍子にリセール成立
「リノベーション後は、友だちがよく集まってくれるようになりました。リビングの壁にプロジェクターで映像を映せるのでキッチンから観ながらみんなで料理をして、食卓を囲む機会が増えました。年越しもここでワイワイと過ごし、そのまま海まで初日の出を見に行ったこともありました」

