「ホテルライクでスタイリッシュ――」
マンションの販売広告などでよく目にする表現ですが、それとは一線を画する雰囲気。とにかく、先ほどまで見ていた駅まわりのにぎわいや、団地のレトロな景観を記憶から一瞬で消し去っていきました。「幻想的」という言葉がふさわしいでしょうか。ここへ帰ってくれば、仕事場や学校など、外の世界で起きたリアルなできごとを丸ごとリセットできそうです。
「蜃気楼のような見え方、境界の曖昧さを意識してデザインを考えました。この空間に暮らしていること自体が、まるで白昼夢になるイメージです」。そう話すのは、この住まいの施主であり、設計を手がけた川内聡士(かわち・さとし)さん。27歳。建築設計事務所に勤める会社員です。
実は、団地の一戸であるこの住まい。もともとは、川内さんの祖母が暮らしていました。すでに売却が決まっていますが、川内さん自身も数カ月前までここに暮らしていました。つまり、祖母の家を、孫の川内さんが引き継いで、自身の設計でリノベーションして暮らしていたのです。
「普段は、学校や庁舎など、公共の建築物の設計に携わっているので、個人住宅は畑違い。住宅設計は、今回が初めてでした」
社会人になって数年。日々の仕事とはまったく違う、個人宅の設計に取り組んでみたい。そんな思いからスタートしたリノベーション。日々の業務とは、規模も手法も違いますが、施主は自分です。妥協を強いられるクライアントはいません。建築家として、住み手として試してみたいアイディアをすべて詰め込み、自らの理想の空間をつくり上げたというわけなのです。
住所 神奈川県川崎市
築年 約50年
間取り 2LDK(元は3DK)
面積 約57平米
リフォーム完了年 2024年
工事費 1500万円
世帯構成 本人(ひとり暮らし)
設計 本人(設計費はゼロ)
25歳の独身男性が、思い出の祖母の団地を買い取った理由
川内さんの祖母は、夫(つまり川内さんの祖父)が亡くなり、ひとり暮らしになった際に一軒家を売却。娘家族の家のそばにあるこの住まいに引越してきたんだそう。

