子どものころから辞書を引くことが好きだった。気になった言葉があれば調べる。それが将来何につながるのかなど、考えていたわけではない。
仕事に必要な知識を、できるだけ効率よく身につけたい。そんな現代の傾向からすると、ずいぶん遠回りにも見える。しかし、役に立つかどうかわからない知識、仕事とは関係のない人との会話、何かのためではない読書——そんな寄り道が、いつか別の何かと結びつくことがあるのだと、阿刀田さんの人生から学べるのではないか。
「真ん中の6割」は、読書を楽しめる人たち
現在、阿刀田さんは慶應義塾の社会人向け教育機関で、現役の会社員や退職者らを対象にした読書会を続けている。彼らは社会経験が豊富で、「私も教えられることが多い」という。そんな人たちに阿刀田さんがすすめているのは、仕事に役立つノウハウ本でも、いわゆる教養書でもない。
「基本は『面白い本を読もう』です。参加される方々は、単純に面白い小説はあまり読んでいない。立派な本を読むことはあっても、面白い小説を楽しむ読書はしてこなかったんですね」
そんな受講生たちに、読書についてこんな話をしているそうだ。
「100人いれば、黙っていても本を読む人が20人、どうやっても読まない人が20人いる。問題は真ん中の60人です。『あなたは、その60人に入っているのではありませんか』というところから話を始める。そこに入っているなら、少し面白い読書を考えてみてはいかがですか。そう問いかけています」
健康を守ることも、お金を蓄えることも、年齢を重ねていくためには必要だろう。けれど91歳の阿刀田さんを見ていると、それだけではなく好奇心のままに蓄えた知識も、長い人生のなかでは必要なのだと思える。
役に立つかどうかはさておき、面白いものに寄り道する。物事を、ときには少し斜めから眺めてみる。そんな知的な「へそ曲がり」は、91歳になった阿刀田さんの中で、今も健在だった。



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