現在、アメリカ上院では、AI規制に関する法案が多数提出されている。その多くは民主党から提出されたものだが、一部には共和党によるものもある。また、国連総会後にワシントンで行われた米中首脳会談ではAIも議題となり、中国側はAI企業による減速論はアメリカが技術的優位を維持するための戦略ではないかとの考えを示した。両国はAI関連インシデントについて連絡を取り合うため、二国間のコミュニケーション・チャンネルを設けることで合意した。ただしこれは規制を前提とはしていない。
欧州でもこの問題は大きな議論となっている。たとえばフランスのロラン・レスキュール経済・財務相は、一部の大手AI企業による開発の減速要請は、先行する企業が優位性を維持するための「自己利益」に基づくものだと、批判的な見解を述べた。
同じくフランスのAI企業ミストラルもまた、アメリカのAI企業が現在の懸念を利用して「市場での地位を固め」、小規模な競合他社を不利な立場に追いやるような規制を推進していると主張している。
一方、ドイツ・デジタル担当相の報道官は、AI開発を一時停止することは、欧州にとって現実的な選択肢ではないとし、欧州のデジタル主権強化のためには、さらなるAIの開発とイノベーションが必要だと主張している。ただし、ドイツ政府は世界のAI動向を注視しており、主要な開発企業からの警告を真剣に受け止めているとも述べた。
イギリスの大手広告企業であるWPPの最高AI責任者(CAIO)で、WPPに買収されたAI企業Sataliaの創業者でもあるダニエル・ハルム氏は、そもそもすべての企業や国がAI開発の減速に合意することは現実的ではないとの見方を示した。
人の制御が及ばなくなる前にやるべきこと
現時点で明確なことは、AIの能力が急速に高まるなかで、その「安全性を誰が、どのように検証するのか」という問題が、もはやAI企業だけのものではなく、地政学的な覇権争いの要素も絡んで複雑化してしまっているということだ。
AI企業の立場から見れば、開発を減速させれば競争力を失う可能性があり、かといって競争を優先すれば、いつかAIが自己改善能力を備えたときに、安全性の検証や制御の仕組みがAIに追いつかなくなり、取り返しのつかないリスクを生む可能性がある。
実際、9月24日には、今年6月にオーストラリア政府機関のウェブサイトにOpenAIのAIエージェントが不正侵入し、非公開データへのアクセスやファイルの書き込みがあったことが、同国のアルバニージー首相によって公表されている。同首相は、データが改ざんまたは汚染された可能性を調査中だと述べた。
アモデイ氏が示した第三者による評価、企業間の共通ルール、政府による規制策定と国際的な協調という3段階の提案は、実現するには越えるべき高いハードルがある。
AI企業、政府、研究者、そして社会は、技術の進歩そのものだけでなく、「どこまでの速度で進むのか」「どのような条件なら進めてよいのか」という問いにも向き合う必要がある。AI開発競争がさらに激しくなるなか、そのルールをめぐる議論は、これからますます重要になっていくと考えられる。




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