育休を巡る問題は、業務の先送りだけではない。同僚からの心ない一言に苦しむ人も少なくない。
「昔は、男性育休なんてなかった」
「休んでいる間、誰がカバーすると思ってんの?」
こうした言葉は本人に直接届かなくても、職場の空気として伝わり、孤立感を生む。
冒頭のケースでも、同僚に悪気はなかったにせよ、彼が抱え込んだ3つの仕事を一気に片づける姿を見て、「自業自得では」という冷めた視線を向ける人が、社内に皆無だったとは言い切れない。本来、不満の矛先が向かうべきは、期限を共有せず「お願いします」で済ませてしまった仕組みのはずだ。しかし実際には、育休を取得した本人に向かいやすい。
「業務が回らない」という理由で育休の申請そのものを拒否したり、復帰後に責任ある仕事を外したりする事例も報告されている。制度上は認められた権利であっても、職場の空気がそれを許さないケースがあるということだ。
さらに、「とるだけ育休」という言葉も広がっている。取得はしたが、育児にほとんど関わっていない、という揶揄だ。ただし最新の調査では、育休を取得した男性の多くが、沐浴やおむつ替え、授乳といった複数の育児に主体的に関わっており、「形だけ」は実は少数派だという結果も出ている。
それでも「とるだけ」という見方が根強く残るのは、世間の目と実態がずれている証拠だ。表向きは「育休は素晴らしい制度だ」と誰もが口にする。しかし本音では、休んだ人の穴を誰が埋めるのか、その負担を誰が引き受けるのかという不満が、職場のあちこちにくすぶっている。この本音と建前のギャップこそが、育休を巡るトラブルの温床になっているのではないか。
必要なのは「男性育休を取得するための事前準備」の精度
ここまで見てきたように、男性育休を巡る問題の本質は、休む期間の長さにも、同僚の善意にもない。締め切りが遠いうちは誰も動かない、という職場の体質そのものにある。
育休は、その歪みを可視化する機会にすぎない。仕事を振り分けるだけでなく、休業期間中に小さな締め切りをいくつも設定し、進捗を確認するタイミングを決めておく。これを組織共通のフォーマットとして定着させておく。その備えがあって初めて、男性育休は取得しやすくなるのではないか。
冒頭の人事部の男性も、決して準備を怠ったわけではないだろう。しかし「男性育休を取得するための事前準備」として”弱すぎた”のは事実である。
育休を「本人の頑張り」や「休む期間の長さ」の問題にすり替えず、新しい制度が健全に定着できるよう、今一度、組織の制度や仕組みを見直してもらいたい。当事者や関係者の意識や心意気に任せるのではなく。


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