別の手紙では、「劉向の書いた『列女伝』がとても面白いですよ。今、その文章を漢文からひらがなに書き直し、挿絵を加えています。今の時代にはないものです。お送りしますので、ぜひ楽しんでくださいね。ちなみにこの本を写させている女というのは、姉さんもご存じのお龍なんです」と記しています。
このように、あえて文武両道の姉が喜びそうな「列女伝」というタイトルの本を選び、それをそのまま贈呈するのではなく、姉が読みやすいように平仮名・絵入りに直してやったのです。しかも、その作業を妻のお龍にさせるという心憎いことをしています。将来必ず対面するであろう嫁と小姑の仲を事前に取り持っておこうとする龍馬の、見事な配慮でしょう。
龍馬というと、細かいことにこだわらない鷹揚な性格だったと思われていますけど、実は心の機微がわかる繊細な人物だったのです。
プレゼントで人の心をつかんでいた?
河合:私、龍馬って、巧みなプレゼントで人の心を掴んだのではないかと思うんです。寺田屋事件で世話になった薩摩藩の吉井幸輔に、刀を贈呈していますが、赤穂浪士が所持していたという逸品でした。
幕末の志士が集まれば刀談議に花が咲いたといわれるほどで、良い刀を持っているのは自慢できること。赤穂浪士の刀なんて、いまでいえばロレックスの腕時計のようなもの。こうした高級品を惜しげもなく贈ったのです。きっと吉井の心は、龍馬につかまれてしまったのではないでしょうか。
龍馬はまた、姪の春猪に西洋のオシロイや流行していた銀の板打ちの簪を贈っています。特に銀の簪については、「いろいろ種類があるので、お前がほしい簪の形状のものを紙に書いて送ってくれたら、それを探して贈ってやるよ」と言っています。わざわざ相手の希望を聞いてから、彼女の好みにあう品をプレゼントしようとする優しい心遣いを見せているんです。
いうまでもなく西洋の品はたいへん貴重で、土佐という田舎に住んでいる人にはまず手に入らない。女性が使う外国製の白粉などは開港場の長崎を拠点にしていた龍馬だったからこそ、手に入れることができた逸品でした。ちなみに兄には、西洋の時計をプレゼントしています。
このように龍馬は、相手の希望をよく考慮しつつ、当時として非常に目新しく高価なものを惜しげもなく贈ったのです。そんなプレゼント大作戦が、有力者たちの心をわしづかみにし、龍馬を歴史の舞台に押し上げたのかもしれませんね。



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