――経済報道のサブスクの先例では日本経済新聞があります。
日経の数字は研究しましたが、新聞とは違うのであくまで参考にした程度です。ダイヤモンドには企業・産業取材を担う記者が30人程度しかいないので、規模がまったく違います。全産業をカバーできないので、テーマごとにやっています。
ダイヤモンドは1990年代前半に英エコノミスト誌と提携していて、私はその日本語版をやっていました。あそこの組織にも、それほど多くの記者がいるわけではありません。にもかかわらず、そこから『ロングテール』『フリー』などのベストセラーを執筆したクリス・アンダーソンが出てくるのは、やっぱりテーマを持ってやっているからです。彼は1990年代にインターネットをテーマとした記事を英エコノミスト誌で書いていました。
日経はサブスクの成功事例ではありますが、やり方が違います。他社から学ぶというよりも、ゼロイチで自分たちのやり方を組み立てていきました。
デジタルに集中する決断をした理由
――紙による経済情報の提供にも良い点はあります。
紙の付加価値はあると思います。それはセレンディピティというか、書店での市販であれば当社の媒体を知らない読者との偶然の出会いもあるわけで、リーチを広げるうえでは非常に大きいと思ってはいます。
――デジタルと紙の両方をやる、という選択肢も考えられそうです。
ビジネスと働く環境という2つの面から考えました。書店経路で売れる特集と、デジタルでビジネスパーソンに読んでいただく情報は、必ずしも一致しません。うちは少数精鋭の会社なので、同じ編集部に2つの仕事をさせ続けることは難しい。デジタルの船に乗って出航しろと言っておきながら、陸につながったままということになってしまいます。
2019年から2年、3年経つとサブスクだけでもいけるぞ、というふうに自信が深まっていきました。現場は明らかにこのくらいのときから海に向けて出航したかったと思うんですよ。逆に私ども経営陣のほうが、それを押しとどめていた可能性もあります。
それで、現場とよく話して、もう思い切って出航しようよ、ということに決めました。2025年3月に市販をやめて、定期購読専用に切り替えたわけです。
――先に長期戦略とゴールを決めて、それを淡々と実施しているのだと思っていました。
私はシナリオのプランニングが大好きなので、シナリオをいくつも作って、上司たちに2018年秋の段階で見せています。決めつけることなく、いろいろなシナリオを持ってやっています。
――山頂は一緒だけど登る道はいろいろある、というイメージでしょうか。
山とはちょっと違います。意思決定の積み重ねなので、数多く分岐しており、それによってゴールも変わっていくシナリオです。
――2018年からを振り返ると、ここまではメインシナリオで来ていますか。
おおむね想定どおりです。想定から変わってきたのは、ポジティブサプライズかもしれませんが、当初計画よりもスタートダッシュでサブスク会員が大きく伸びたことでした。収益も急拡大しました。それによって、先ほどお話ししたように現場が自信を深めていったわけです。
この成功体験は企業・産業に関する報道から来ているものなので、そこを強めていこう、となっていきました。私自身そうなってほしいと考えていたのですが、期待していた以上に早く、ボトムアップでそういう流れになっていったと思います。

