ところが実は、盆栽を連れ歩いた人物もいます。自民党総裁として政界に君臨し、内閣総理大臣を5期もつとめた吉田茂です。
吉田は東京から神奈川県の大磯町の別邸(旧吉田茂邸)に移動する時、車の助手席にケヤキの盆栽を乗せて連れて行っていたそうです。
もっともこの盆栽もずいぶん大きく成長しているので、現在では助手席に乗せるのは無理でしょう。
「水遣り3年」と言われるほど難しい
このように盆栽にはさまざまな管理が必要ですが、もっとも重要なのが先にも述べた水遣りです。
水遣りぐらい誰でもできそうに思えるかもしれませんが、盆栽界ではよく「水遣り3年」と言います。
鰻職人の修業で「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と言い慣わすのになぞらえているわけですが、水遣りはそれだけ熟練を要する技術なのです。
樹は健康の度合い、また樹齢によって、水の吸い上げ量が違ってきます。同じ大きさのアカマツだからといって、同じように水をやってよいというわけではないのです。
そのバロメーターになるのが、土の乾燥速度です。水をやってからどれくらいの速度で乾いていくかを毎日観察することで、徐々に一鉢ごとの適切な量がわかってきます。
このように、日々の水遣りは盆栽を観察する行為でもあり、樹との対話にもたとえられています。
ここの判断を間違えて、水の量が少ないとなれば、夏場であれば最悪だと樹が枯れてしまいます。また逆に水が多い場合は、鉢の中で水分量が過剰となり、根腐れを起こしてしまいます。
毎日の水遣りを通じて経験を積み、新しく管理しはじめた樹のコンディションまで判断できるようになるには、およそ3年という歳月が必要となるのです。
特に夏場は急速に水分が失われるため、頻繁に水遣りをする必要があります。大宮盆栽美術館では水遣りを行う技師たちが、夏場はまるでサーファーのように真っ黒に日焼けをしていました。

