岡本氏にとって教育委員とは、行政が決めたことを承認するだけの存在ではない。PTAや学校運営協議会など保護者や地域とのつながりから「草の根」の声を持ち込み、意思決定の場で問い直す。不登校の保護者との意見交換会の開催をすべての保護者に知らせるよう求めたり、子ども主体の事業では名称を子ども自身に考えてもらうよう提案したりしてきたのも、その一環だ。
「教育委員は市民を代表する立場でもあるので、できるだけ多くの保護者等の声を聴き、行政につなぐことが自分の役割だと思っています」
教育行政と保護者の間にある「距離」
一方で、その役割を担うからこそ見えてきた景色もある。1つは、行政に根強く残る「縦」の文化だ。
「事務局の方や校長先生から『岡本先生』と呼ばれるんです。僕は先生ではないし、あくまでも1(いち)保護者です。上下でなくフラットに意見を出し合う関係でありたいので、『先生と呼ばないでください』と言い続け、やっと『岡本委員』と呼ばれるようになりました」
もう1つ、実感したのが、学校や教育行政への疑問や不満が、想像以上に教育委員会に寄せられていることだ。事務局には日々多数の電話が入り、「守秘義務があるので詳細は言えませんが、『こんなことで……』と驚く案件もあります」という。
岡本氏は、その背景の1つに、PTAなど保護者同士をつなぐ「中間集団」の弱まりがあると見る。
「PTAに対するネガティブなイメージが強まる中、保護者同士のつながりが、以前に比べて弱くなってきています。保護者同士が気軽に相談したり声を掛け合ったりする機会も減っている。その結果孤立し、知り合いの保護者や学校を飛び越え、いきなり教育委員会に声を届けるケースもあるのではないでしょうか。だからこそ、学校運営協議会や地域学校協働活動など、保護者や地域の人たちがつながり学校と関われる場を活発にしていくことが大切だと思います」
では、教育委員会で何ができるのか。岡本氏自身、「結局われわれは、何に貢献できているのだろう」と考えることがあるという。区の教育の方向性を考え、制度や仕組みをよくしていくことが教育委員会の役割であることに変わりはないが、実際に教育活動を担うのは学校現場だ。教育委員会で決めたことが、現場で全て反映されるとは限らない。ここに、教育行政と学校現場との「距離」がある。だからこそ大切なのが、自治体としての明確な教育ビジョンだと、岡本氏はいう。


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