とは言え、「冬の新月に切れ」と言われても、素人が聞けば、言い伝えられているだけで根拠がないように見えます。しかし、この経験則については2003年、世界トップクラスの工学系大学であるETHチューリッヒ(チューリッヒ工科大学)のエルンスト・ツルヒャー教授チームによって、科学的検証が行われたのです。
実証された事実は、2つ。ひとつは、新月伐採材(ムーンウッド)は、通常材より耐久性も耐候性も明確に高い。もうひとつは、オーストリアのトウヒ林で観察された結果として、キクイムシは、満月伐採の木を新月伐採の木より、はっきりと好んで食害する。
メカニズムの完全解明はまだ途上ですが、「月の引力によって樹木の水分と樹液成分が周期的に変動し、新月期に水分・デンプン量が低下することで、虫害と腐敗のリスクが下がる」という仮説が有力です。
口承されてきた「100年スパンで回された自然実験」
ここで起きていたことを、いったん言い直してみます。
文字を持たなかった時代から、何百年・何十世代にもわたって、木こりたちが「いつ切った木が生き残るか」を試し続け、結果だけを口承で残してきた。これは、現代科学の言葉で言うところの、「100年スパンで回された自然実験」にほかなりません。先人が「迷信」というラベルで遺してくれたのは、本質的には、究極のビッグデータだったのです。
「雷と豊作」の関係も、同じ構造を持っています。
「雷が落ちると豊作になる」と、昔の人は経験から知っていました。なぜかはわからないけれど、雷を稲の伴侶(夫/つま)と考え、「稲妻(いなずま)」と呼んでいた。ところが20世紀になって、雷の高エネルギーによって空気中の窒素分子が酸素と結合して窒素酸化物になり、雨に溶けて硝酸塩として土壌に届く――つまり、雷は「天然の肥料散布装置」である、と判明しました。
経験則は、メカニズムが解明される何千年も前から、結果を正しく拾っていたのです。
ただし、ここで早合点してはいけません。「迷信は実は本物だ」と全肯定するのも、また罠です。世の中には、結果を出していない、メカニズムも説明できない、ただラベルだけが「伝統」「直感」「最新科学」を名乗っているものが、ごまんとあります。
そこで持ち出すのが、ラベルではなく「中身」で判定するための、3点セットです。


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