続いて、首の後ろの通称「ぼんのくぼ」と呼ばれる凹みに長さ10cmほどの針を刺し、小脳延髄槽と呼ばれる空間にたまっている脳脊髄液を採取する「後頭下穿刺(こうとうかせんし)」を行います。
通常、髄液は透明ですが、何らかの原因で脳が腫れて髄液がたまる場所が圧迫されていると何も採取できません。その場合、法医学者は「頭かな(脳血管疾患かな)」と考えます。また、血の混じった髄液が採取された場合も脳出血やくも膜下出血による血液が小脳延髄槽に流れ込んだ可能性を考えます。
鈴木さんの場合も髄液が採取できなかったことから、脳血管疾患が疑われました。ただ、これだけで死因は特定できませんので、解剖も行います。
このような場合でも、脳だけを解剖することはありません。胸とお腹を開けて全臓器を取り出して調べ、その後、頭を開けて脳を調べるという一般的な解剖の手順を踏みます。
私はご遺体に一礼し、鈴木さんの解剖を始めました。
心停止に至るまでに少し時間がかかる「亜急性心停止」
血液はサラサラではなく、軟凝血(柔らかい血のかたまり)が混じっていました。これは脳が原因となって二次的に心臓に負担がかかり、心停止に至るまでに少し時間がかかる「亜急性心停止」を示しており、脳血管疾患で亡くなったご遺体によくみられる所見です。
気管や気管支には、溺死したご遺体にみられるような泡沫(泡状の水分)がたまっていました。脳血管疾患では脳がダメージを受けるため、大量の血液が肺にたまって肺水腫を起こし、血液中の水分が肺胞に漏れ出して泡沫が発生することがあります。


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