警察の捜査によって事件性はないと判断されましたが、警察が依頼した医師による検案(外表検査)では死因がわからず、年齢の若さもあって念のために解剖したほうがいいだろうということになり、私の勤務する大学に運ばれてきたのでした。
ほふく前進で助けを求めた?
解剖前に、私のほうでもう一度検案をします。外表面からは顔面のうっ血*、唇や爪が青紫色に変色するチアノーゼ、まぶたの裏側の溢血点(点状出血)がみられました。これらはすべて「急死」を示す所見です。
うつ伏せで亡くなっていたため、胸とお腹には赤黒い死斑*がくっきりと濃く出ていました。これは虚血性心疾患(心筋梗塞)や脳血管疾患(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)などで急死したご遺体にみられる所見です。
*死斑……皮膚を通して透けてみえる、血の色がつくる斑(まだら)模様。人が亡くなると心臓が停止し、血液が重力にしたがって低い位置に移動する。仰向けで亡くなったご遺体なら、背中側に死斑が出る
では、膝の擦りむいた跡は? じつはこれも脳血管疾患で亡くなったご遺体によく見られる所見です。
脳血管疾患は心臓が急停止する心疾患と異なり、心臓が止まるまでに少し時間があります。そのため、頭痛や吐き気を自覚してから助けを呼ぼうとして歩き回ったり、倒れてからほふく前進をしたりと、しばらく動き回ることがあります。そのときに膝を擦りむくことがあるのです。スマホを握り締めていたのは、助けを呼ぼうとしていたからかもしれません。


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