長野県・白骨温泉での入浴剤着色事件を発端に、群馬県内では伊香保温泉に続いて水上温泉の一部旅館でも、水道水を沸かした湯を温泉と称していた事実が発覚した。水上温泉だけの問題ではなかったとはいえ、有名温泉地としてのブランドイメージには少なからぬ傷がついた。
かつて数十億円規模の売り上げを誇っていた旅館も、経営破綻の波にのみ込まれていった。ひがきホテル、旅館藤屋ホテル、松乃井ホテル――そんな光景が次々と繰り返された。
大型旅館の多くは民事再生法の適用を受けるか、一度倒産したうえで別業者に引き継がれた。それでも経営が続けられればまだ良かった。問題は、引き取り手すら現れず、廃墟のまま放置された建物だった。
1995年の大規模改修、2005年の民事再生法適用など、幾度かの立て直しを試みた「ひがきホテル」も、最終的には例外ではなかった。2016年に一度倒産。翌2017年、新たな運営者のもとで「一葉亭」と名を変えて再起を図ったが、その挑戦もわずか2年で終わり、2019年に再び閉業した。
こうして「関東の奥座敷」は、いつしか廃墟が目立つ温泉街へと姿を変えていった。観光地のはずのこの場所が、心霊スポットとしてネットで話題になる時代が来るとは、当時誰が想像しただろうか。
管理者の所在が不明になった建物、解体費用が捻出できずに放置された建物、旧ホテル大宮や旧蒼海ホテル跡のように所有者が解体の意欲を持てないまま時間だけが過ぎた建物。廃墟をめぐる問題は、単なる景観の問題にとどまらない。「廃墟の温泉街」というイメージが広まれば、現役の宿泊施設にも悪影響が及ぶ。廃墟はいわば、地域全体にのしかかる重荷だ。
壊すこともできず、建て替えることもできない――そんな八方塞がりの状況が、長年この温泉街を覆っていた。
当時を知るみなかみ町企画課の石坂貴夫氏は、これまでの行政には「古い建物は更地にして、また一から建て直す」という発想しかなかったと振り返る。そうした「スクラップアンドビルド」中心の考え方から抜け出す必要があった、というのが実感だったという。
2024年秋、温泉街に景色が戻った日
「スクラップアンドビルド」中心の考え方からの転換の結果、いま目の前にあるのが旧一葉亭の姿だ。2021年から約3年かけて、解体と減築が繰り返された結果、むき出しのコンクリートの柱と梁だけが立ち並んでいる。


※ログイン後、コメント入力が可能です。