「ヴェゼルは気になってお店まで見に行ったのですが、自分にとって車両価格が高く感じられました。さらに、お店の営業スタッフの対応が少ししっくりこなくて、今回はやめておこうと候補から外してしまいました」
一見すると、よくある「価格への不満」と「接客不信」による競合流出の事例に見える。しかし、ここで矛盾が生じる。彼女が最終的に購入したトヨタの「RAV4」は、ヴェゼルより一回り大きく、一般に車格は1つ上となるからだ。
カタログ上のメーカー希望小売価格も高価なクルマだ。なぜ「ヴェゼルは高い」と断念した人が、より高価な「RAV4」を納得して購入したのだろうか。
これに対する解が、当時の定量データ(Car-kit)内の「実質的な価格・値引き構造」の差にあると考えられる。17~20年購入者のヴェゼルとRAV4の価格実態を確認すると、次のとおりである。
・本体価格311万円
・値引き20万円
・下取り29万円
→実質支払額:262万円
・本体価格408万円
・値引き28万円
・下取り46万円
→実質支払額:334万円
実質的な支払い額を比較すると、RAV4(334万円)はヴェゼル(262万円)より依然として72万円高い。一方で値引きと下取りの合計値に目を向けると、RAV4は平均74万円差し引かれているのに対し、ヴェゼルは49万円にとどまっている。
「高すぎる」と感じた認知バイアス
ここに、顧客心理における認知バイアスがある。顧客が感じる「高すぎる」という評価は、単純な絶対金額だけで決まるのではない。その製品の価値に対して、下取りや値引きを含めて「どれだけ有利な取引条件で手に入ったか」という取引の納得感で決まる部分もある。
彼女にとって「コンパクトなヴェゼルに、値引きや下取りも渋い中で実質262万円を支払うこと」は割高に感じられた。一方で、「RAV4が、値引きや下取りで74万円も引かれて実質334万円で手に入る」ことは、お買い得と映ったのだ。
この「価格納得感の低さ」が、同時期にヴェゼルを検討した女性にとってそれなりの影響力があったことは、定量データから示されている。
同時期に「ヴェゼルを最後まで検討したが、最終的に他車を選んだ女性(サンプル数:n=501)」の断念理由を集計したところ、「車両価格が高い」が32%で1位を記録している。彼女の引っかかりは、市場全体の3人に1人が感じていたボトルネックであったのだ。


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