ジェロームさんはそれまでもフランス以外の国の人を紹介したこともあったため、外国人の彼女は両親から自然に受け止められた。「気の合う人と出会えてよかったね」と喜んでくれたそうだ。
しかし、珠緒さんはジェロームさんの存在を、日本に住む実家の家族にすぐに話すことはできなかった。実家は代々弓具店を営む伝統工芸の家系で、父親は生粋の職人だ。海外に一度も行ったことのない父に、「外国人の恋人ができた」とは、とても言えなかったのだ。
お互いの「違い」を面白がれる好奇心
異なる国で育った二人には、文化の違いによる摩擦はなかったのだろうか。
ジェロームさんは「記憶しているほど、印象に残っていることはない」とすぐに答えた。
とはいえ、文化の違いはあるのではないかと質問の角度を変えてみたが、珠緒さんは「うーん」とひとしきり考えた後で、「そんなにないかもしれません」と答えた。
「お互いに好奇心旺盛なので、むしろ文化の違いを面白がる感覚が強かったのかもしれません。母国ではないイギリスで出会っているから、どちらかがスタンダードだ、という意識を持たずにニュートラルでいられたのかもしれません」
珠緒さんが「小さなことだけど」と言って教えてくれたのは、ジェロームさんの家にクレープを焼くためのフライパンがあったことだ。初めて遊びに行ったときに、クレープをささっと作ってくれたことに驚いた。ジェロームさんが言うには、フランス人ならみんな持っているそうだ。
二人が付き合っていた頃の思い出深いデートの場所は、「クリスティーズ」という美術品のオークションハウスだ。オークションと聞くとハードルが高く感じられるが、オークション前に作品を一般公開する「下見会」は、誰でも無料で入場可能で、絵画の裏面を外してサインを確認したり、陶器を実際に手に取ったりすることもできるそうだ。
「美術館では作品に触れることはできません。でも下見会では間近で作品を見られて、しかも触れることもできる。美術を学ぶ学生である私にとって、とても楽しい場所でした」と珠緒さんは言う。


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