日本でも7月に公開された『オブセッション 災愛』は、カリー・バーカーという20代の監督が撮った。なんと、世界興収が5億ドル。彼はYouTubeチャンネル「That’s a Bad Idea」でコツコツ作品を公開し、百万単位の再生数を獲得した。登録者数は165万人にも及ぶ。ただ、日本では一部の映画好きの間では話題になったものの、目立ったヒットにはなっていない。
9月公開の『バックルームズ』もケイン・パーソンズ監督が20歳のときに作った作品で、世界興収は3.9億ドル。彼もYouTubeで作品を公開しており、登録者数は360万人に上る。つまり、いまのアメリカでは「YouTube直送型」の映画がヒットし始めているのだ。
だが、日本では海外ほどヒットしない。英語のチャンネルなので、日本にファンが少ないからだ。同様に、『映画ちいかわ』が海外で公開されても、ヒットは難しいかもしれない。Xでの国内人気が言語の壁を越えるのは至難の業だ。
メガヒットのカギは「ファンダムの存在」
ただ、Xであれ、YouTubeであれ、「ネット直送型」のヒットが生まれる時代になったと言えるのではないか。ポイントは、ファンダム(熱狂的なファン)だ。熱いファンがいれば、映画市場にデビューして、いきなりメガヒットが飛ばせる。そんな時代が来ているのだ。
映画のヒットとは長らく、資本と時間をかけてIP(知的財産)を育て、宣伝によって動員を作り出す、装置産業的な営みだった。「トイ・ストーリー」は、その王道が生んだ、最も輝かしい成果の1つである。
日本公開の1996年、子どもが生まれたばかりの私は、1人で映画館で見ながら、いつか子どもたちと見に来ようと思ったものだ。実際、ピクサーのほかの作品や『トイ・ストーリー』の2作目、3作目は家族で見にいった。私の子どもたちもすっかり大人になった今年、シリーズ5作目が公開され、いまの親子連れを楽しませているのは感慨深い。
だが、世界のディズニーがピクサーと30年育てたコンテンツが、X生まれのシンプルな線のアニメに抜かれるとしたら、時代の変化を思い知らされずにいられない。映画と観客の関係に、電波や撮影所が不要になろうとしている。
映画市場の主導権が、どこへ移ろうとしているのか。この夏の興行は、その問いを私たちに突きつけている。ネットで育ったファンダムが、映画のヒットの作られ方を確かに変えつつある。


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