あれから23年が経過し、今また猛暑によるさまざまな被害が発生しているわけですから、行政側の準備不足が指摘されるのも当然でしょう。パリの屋根裏部屋にエアコン設置ができない規制についても、検討が急がれています」
その規制とは? 次の章で見ていきましょう。
2. 文化遺産的要因:景観保護のためエアコン設置が許可されていない
「ABF(Architectes des bâtiments de France=フランス建築保護建築家)によって、フランスの文化遺産とその周辺の景観は保護されています。文化遺産の半径500mが対象になるため、パリの場合は市の面積の約97%が保護地域に該当すると言われています。そのおかげで、パリがパリらしく魅力的であり続けているわけですが、エアコンの室外機はもってのほか、雨戸ですら景観保護の理由から設置が許可されません。気候変動の今、これは考えものです」
日本では、自分の判断で購入し、業者に工事を依頼するだけで設置できるエアコン。パリの集合住宅に住んでいる人は、まず年1回のオーナー会議(大家との会議)で承認を得た後に、ABFにも許可申請を行わなければなりません。時間がかかる上に、報われる可能性がほとんどない道のりに思えます。このような状況下で、パリの人たちはこれからの猛暑の時代をどう生き抜くつもりなのでしょう?
「といっても、オスマニアン建築そのものには特に問題はありません。住居の正面側と裏側に窓があり、風が通り抜ける構造になっているため、猛暑でも比較的過ごしやすいのです。また石造りですから、熱をためやすいコンクリートの近代建築に比べると、室内温度はそれほど高くなりません。よって、19世紀のオスマニアン建築は、現代の環境にふさわしくないというわけではないのです。
問題は、『女中部屋』と呼ばれる屋根裏です。もともとが女中のための仮住まいでしたから、断熱が不十分な上に、ジンク(トタン)張りの通称『パリの屋根』の真下にあります。ジンクの屋根は、ひどい時には70度まで温度が上昇することがわかっています。
傾斜した天井の天窓には雨戸がなく、一日中直射日光を遮ることもできません。内側から断熱するにも天井が低く狭いため、限界があります。なぜならその引き換えに、住空間が狭くなってしまうから。『女中部屋』は、パリらしいチャーミングな空間としてここ数年人気でしたが、猛暑の今、もっとも被害を受けている住空間の1つになってしまいました。

