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前回は、ケインズは正しかったのに、下心のために、理論が当時の世界の状況に迎合的となり(あえてこう言おう)、21世紀の経済を描写するのには、適用できなくなってしまった、という話だった。
期待、欲望、投機的行動、群集心理と行動、それと金融市場。これらへのケインズの洞察を突き詰めれば、21世紀も22世紀にも通用する、より長寿な「一般理論」が成立したはずだったと私は考える。
しかし、下心以外にも、小さな理由と大きな構造的要因の2つにより、ケインズ理論は21世紀経済へは適用できなくなってしまった。
「株価が上がれば企業は投資する」と結びつけた「トービンのq」の罪
小さな理由とは、「株式市場」の本質についてである。ケインズはわかっていたのに、間違ったのである。
これを端的に表すのは、「トービンのq理論」である。
ジェイムス・トービンは、ケインズの本質を受け継ぐ学者たちの中で、もっとも正統派の経済学者であった。1981年にノーベル経済学賞を受賞したときの理由の1つが「トービンのq理論」だった。
トービンのqは、株式市場で評価された企業の価値を資本の再取得価格で割った値として定義され、これが1を超えれば、企業は設備投資などの投資行動を活発に行う。なぜなら、市場は、この企業の価値が既存設備の価値よりも高いと評価しているため、企業の将来の収益力は現在の企業規模から算出される収益力よりも大きくなることが期待され、企業は投資を拡大することが合理的と考えられるからである。
しかし、読者の皆さんには、おわかりのように(過去2回の連載記事に賛成していれば)、これは間違いである。金融市場と実体経済をつないではいけないのである。つながればつながるほど、経済はおかしくなる。金融市場に振り回されてしまう。トービンのq理論は、それが直接的に起こる。
株価を企業価値の評価として使うことは間違っている
これが間違いだ、と主張することは、ケインズ批判だけでなく、トービンのノーベル経済学賞も否定し、さらに、一時期は、トービンのqの実際の値を算出することに人生のすべてを捧げたような研究者が多くいたが、彼ら全員を、そして、今現在でも、多くの実証研究でも変数として使われているトービンのqを否定することで、ほぼ全部の経済学者を敵に回すことになる。
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