地域のコミュニティスペースで同じように売買していた人と揉めたこともあり、ビジネス×人間の学びもあった。
「その人は、コミュニティ運営費がカードの販売価格に転嫁されているビジネスモデルだったので、僕が地域の値段よりちょっとだけ安い値段で売ると僕から買う人が増える。そうすると、コミュニティの運営費が賄えず、カードゲームをする場所がそもそもなくなっちゃうんだけど、購入する人はそんなこと考えない。
僕は最初は安く仕入れて、しかもお客さんが喜ぶんだからいいじゃんって思ってたけど、よくよく頭を冷やして考えると、カードを買ってくれる場所と人たちがいなくなると、将来僕の首を絞めることになる。カードゲームを好きだからこそ、儲けだけに全振りできない。商売って本当に難しい」
こうして、少年はいつの間にか、日本中のプレイヤーが何を欲しがるかを読む行商人になっていた。カードゲームから始まった「相手の心の中身への興味」は、ここで一気に、市場全体を読む視座にまでスケールを拡げていた。
大学で“哲学とメディア”を研究→テレビ局に入社
日本大学三島高等学校を経て、大貫さんは明治大学情報コミュニケーション学部に進み、現代思想や哲学を学んだ。
「相手が何を考えているのか」という問いを追いかけていくと、次に浮かんでくるのは、「では、その考えはどこから来るのか」という問いだ。人は、生まれつきある考えを持っているわけではない。何かを見て、何かを読んで、何かを聞いて、その結果として考えを持つ。だとすれば、「考え」を作っている媒体そのもの――つまりメディア――こそが、いちばん奥にある変数ではないか。
大貫さんは、大学で哲学とメディアの関係性を研究した。人が何を見ているか。何によって考えが形成されるか。それを、単位のためのレポートでも、発表するためでもなく、ただ自分の関心を突き詰めるために書き続けた。
中学生のときに「相手の手札」を読んでいた少年は、20歳の頃には「人がどんなメディアを通じて世界を認識しているか」を読んでいた。関心のレイヤーは変わっても、追いかけているものの根っこは変わっていなかった。


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