しかし、今回の事案は、座席や飲食をめぐる不快感、あるいは迷惑の問題とは性質が異なる。動き始めた列車へ人が近づき、実際に緊急停止へ至っているからだ。
列車に近づく行為は、本人だけの問題ではない。乗客や係員を巻き込み、接触や事故などのインシデントにつながる可能性がある。安全運行に直接影響したことが、JR西日本の対応を支持する反応や、当事者への強い批判が生まれた背景にあると考えられる。
コロナ禍以前の古いデータだが、国土交通省鉄道局が2010年3月にまとめた調査は、この構図をはっきり示している。三大都市圏の鉄道利用者1777人に聞いたところ、ホームの白線・黄色線の外側を歩けば列車と接触する危険があると考える人は97%にのぼった。ところが、それによって駅係員が発車時の安全確認をできなくなると考える人は、37%にとどまった。
危険は知られている。だが、「自分がそこに立っていること自体が、列車を発車させられなくする」という理解は共有されていない。相生駅で駅員が繰り返し「列車から離れてください」と呼びかけた理由も、車掌が緊急停止させた理由も、この37%の側にある。
JR西日本も、列車に近づかず、安全確認に協力するよう呼びかけている。伝えようとしているのは、危険の存在だけではない。利用者が線の外側にいることが、発車の条件そのものだという事実である。
注意喚起の動画は、投稿者の手を離れる
さて、ここまでは、映像に写った側の話である。だが論点はもう一方にもある。
削除済みの元投稿には、注意喚起を目的とし、映像を拡散したり個人を特定したりしないよう求める趣旨の説明があったとされる。
それでも、映像はいったん公開すれば、第三者によって転載され、当初の投稿者が管理できない場所へ流通する可能性がある。もし元動画が削除されても、インターネット上に「デジタルタトゥー」として残り続けるのだ。
このように危険行為への批判と、識別可能な映像を公開する判断は、別々に検討する必要がある。注意書きだけで、その後の使われ方まで制御できるわけではないからだ。


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