「彼らは羽アリのようでした」
突然の言葉に、一瞬何のことかわからなかった。だが彼は静かに話を続けた。この地方では、羽アリは巣から飛び立つと二度と戻らない存在のたとえとして語られるのだという。
戦場へ向かった日本兵たちもまた、故郷へ帰ることより前へ進むことを選び、やがて戦いのなかで命を落としていった――。村人たちの目には、その姿が羽アリと重なって見えたのだと。
それは侮りの言葉ではない。小さな体で風に乗り、行き先を定めぬまま飛び立つ羽アリの姿に、止まることを許されなかった兵士たちの運命を重ねたのだろう。
はかなく、そして一途に飛び立っていく羽アリ。その姿が、遠い異国で倒れていった日本兵の姿と、静かに重なった。
コヒマを占領するも、部隊は崩壊
第31師団は南側マオ村から進軍してきた部隊と協力し、4月5日、ナガ丘陵の要衝コヒマを占領した。
実は、マオ村近郊の村ショージョーバでも旧日本軍にまつわる、興味深い言い伝えを耳にした。それは「女性兵士を見た」という話である。
ある日、村の女性が集落から少し離れた池へ水を汲みに行った。すると日本兵の軍服を着た数人が水浴びをしていた。突然の光景に驚き思わず逃げ出そうとしたが、ふと気づく。軍服からのぞく半身が女性の体つきだったのだという。それを見て、彼女は胸をなで下ろした――そう語り継がれている。
にわかには信じがたい話だ。見間違いではないのか、と私も思った。しかし案内役の男性は、「半身をはっきり見たのだから間違いない」と譲らない。もっとも彼自身も、人づてに聞いた昔話として知っているだけで、直接の目撃者ではない。
仮にそれが事実だったとすれば、彼女たちは野戦病院の看護師だったのか、あるいは軍の施設に同行していた女性たちだったのかもしれない。旧日本軍に正式な「女性兵士」は存在しなかったとされているが、戦地にはさまざまな立場の女性が動員されていたのかもしれない。真偽は定かではない。それでも、こうした断片的な記憶が、戦争という出来事の複雑さと、人々の心に残った強烈な印象を今に伝えている。

