戦後、コニシは先駆者利益と人口爆発の恩恵、そして緻密なマーケティング戦略によって、「ボンド木工用」を家庭向け接着剤の定番商品へと育て上げた。
「BtoB事業では、自動車、住宅、電子部品、家具、建材など、用途や業種ごとに特化した接着剤メーカーが100社以上あります。しかし、家庭用から工業用まで幅広く手掛ける総合接着剤メーカーとなると、数社しかありません」(小林氏)
戦後80年、日本の人口は急激に増加した。子どもの数が増え、学校工作用の需要も強かったはずだ。市場が拡大したにもかかわらず、なぜ家庭用接着剤では、複数の有力メーカーが育たなかったのか。
ここで比較対象として、「のり」の市場を見てみよう。
のりは文房具、ボンドは化学製品
のりも接着剤も、「何かと何かをくっつける」という役割は同じ。歴史をたどれば、どちらも米や小麦のでんぷんのりや、動物の皮や骨を煮て作るにかわに行き着く。
ところが、戦後、この2つの市場は異なる発展を遂げている。
太平洋戦争後、学校教育の再開とともに、図工や工作で使われる液体のりやでんぷんのりは学校現場へ広く普及していった。その需要を担ったのが、ヤマトや不易糊工業(フエキ)といった老舗メーカーだった。ここまでの経緯は、コニシのボンドと変わらない。
高度経済成長期に入ると、学校教育の普及や就学人口の増加を背景に、文房具市場は大きく拡大していく。こうした流れの中で、コクヨやトンボ鉛筆、ぺんてるなどの総合文具メーカーは、主力商品に加えて商品ラインナップを広げ、のりもその1つとして取り扱うようになった。
コクヨは帳簿やノートなどの紙製品、トンボ鉛筆は鉛筆、ぺんてるは筆記具や画材を出発点とする企業だ。文具を総合的に扱うようになるにつれ、のりも商品群の1つとして加わっていった。
学校や文房具店への営業では、のりだけを売るわけではない。鉛筆もノートも消しゴムも、文房具一式をまとめて提案できる総合メーカーのほうが有利だった。販売網を持つ企業ほど、のりも自然に売れる構造だったのだろう。
一方、接着剤市場では、のり市場と同じ構図にはならなかった。
木工用ボンドは、のりの延長線上にあるようにも見える。しかし、製品として求められる技術は、文房具というより化学材料に近い。
木材には木工用、金属には金属用、プラスチックにはプラスチック用、ゴムにはゴム用。それぞれ接着する素材によって求められる性能は異なり、使用する樹脂や配合を変えながら、耐水性や耐熱性、耐久性などを設計しなければならない。


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