「フネ、ノルー?」(夫)
「Yes! カイモノ!」(黒人男性)
「……」(夫)
おい、まさかのそこで会話終了!? それならば……!
「アー、ユー、フロムカンチュリィー?」(筆者)
「Oh! England!」(黒人男性)
「ヴァケィショーン?」(筆者)
「Yes! One month! I got a family! ◯△×◯△×◯△×◯△×」(黒人男性)
イギリス人男性で、家族で1カ月滞在していること。定期便で買い物に行くということは理解した。
「何もない」に価値を感じる時代
16:00、「プー」という汽笛の音とともに「のりなはーれ」が迎えに来てくれた。ドレッドヘアのイギリス人男性も乗り込んだ。もう1人、船の到着と同時に白い軽トラックに乗ってあらわれた、40代くらいの作業着を着た男性が乗り込んだ。軽トラックは、男性と一緒に乗ってきたおばあさんが運転して帰っていった。
帰りも2階のデッキ席に上がった。ゆっくりしたスピードでフェリーが進む。夕日が瀬戸内海を包み込む。いつもおんぶをせがむけど、今日は坂道をしっかり歩いていた3歳の娘が、「キラキラ!きれい!」とはしゃいでいた。
少しずつ、少しずつ、別荘が建ち並ぶ鴻島が遠くになる。
16:15、本島に到着。乗客が全員降りた後、船頭さんが宅配便を積み込んでいた。島の住人宛の宅配便は、宅配業者が船乗り場まで運び、「のりなはーれ」に乗って送り届けられるそうだ。
船から降りてすぐのスーパーに向かった。行き交う車の音。カラフルなポスターに看板。あふれんばかりに陳列された惣菜にジュース、お菓子。水分を欲した筆者は、大好きなコーラを買ってグビっと飲んだ。でもこの日は、ただの甘ったるい飲み物に感じた。
鴻島で過ごした時間はたったの約3時間だったけど、五感が研ぎ澄まされたのかもしれない。
スーパーも自販機もない、自然の音しか聞こえてこない。鴻島は本当に何もなかった。けれど、物があふれる現代、これだけ邪魔するものが何もない空間はなかなかないと思う。もしかしたら「何もない」ことにこそ、価値を感じる時代なのかもしれない。
だが、鴻島は一時、「バブルに取り残された島」とも呼ばれていた。バブル期には1億円を超えた別荘が、次々と廃墟になっていったという。約18年前、そこに現れたのが大阪の不動産会社だった。誰も手をつけようとしなかったこの島の別荘を、その会社はなぜ再生できたのか。後編でその謎を解き明かす。


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