あけみ(37歳、仮名)は、幼い頃から母親に繰り返し言われてきた言葉がある。
「勉強も進路も、前に進もうとするときは必ず迷うもの。でも、迷ったときは、どうしたら前に進めるかを考えなさい。ただし恋愛だけは違う。迷う相手ならやめなさい」
恋愛には理屈では説明できない感情が伴う。だからこそ母親は、娘が恋愛で傷つき、つらい思いをしないように、自身の経験も重ねながら、そう教えたのだろう。しかし、その言葉は、あけみの恋愛観を少しずつ臆病なものへと変えていった。
女子校から共学の大学へ進学したが、男性をことのほか意識してしまい、自然に友人関係を築くことができなかった。男性から食事に誘われても、「相手に好意を持たれたら、どう答えていいのかわからない」という考えが先にたち、気軽に応じられない。
就職後も状況は変わらなかった。職場の飲み会など大勢の集まりには参加できても、男性と2人きりで食事へ行くことには強い抵抗があった。恋愛の入り口に立つ前に、自らその扉を閉じてしまうのである。
こうして恋愛らしい恋愛を経験しないまま、気づけば37歳になっていた。
「迷う=ご縁がない」ということ
「あと3年で40歳になります。できることなら結婚して、子どもを授かり、家族を持ちたいんです」と、入会面談のときに、あけみはこう話していた。
一念発起して始めた婚活だった。ところが、お見合いを重ねても、交際が始まるとすぐに迷いが生まれる。「本当にこの人でいいのだろうか」「少しでも迷うということは、ご縁がないということではないか」。そのたびに、交際を終了していた。
筆者は彼女に言った。
「結婚を決めるときに、まったく迷いのない人はいません」
彼女は少し驚いた表情を見せた。


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