水島臨海鉄道では、現場で生まれたアイデアが本店に共有、検討される。採用されれば実際の企画として反映される仕組みだ。
従業員数は60人ほどと小規模であるため、一人ひとりの提案が経営層に届きやすい。次々と新しい企画が生まれる背景には、現場での雑談から生まれたアイデアも柔軟に取り入れる風土が定着している。
社員の得意分野を生かせる場面も少なくない。毎年10月に開催される同社最大のイベント「鉄道の日記念フェスタ」では、鉄道模型が趣味の社員が模型展示を提案し、自前の車両を持ち込んで担当した。このイベントには部署や職種を超えて全社員が何らかの形で関わっている。
大森さんは「鉄道ファンの社員がファン目線で企画を提案してくれるので助かります」と話す。
もっとも、こうした取り組みが本格化したのは比較的最近になってからだという。
キハ205引退がきっかけ
転機となったのは2017年3月のことだった。
水島臨海鉄道で長年活躍してきたキハ205が引退したのだ。1950年代から60年代にかけて製造された国鉄キハ20を譲り受けた車両で、1988年に同社が購入してから約30年もの間、活躍してきた車両だった。引退時、西日本で走る現役車両として最後の1両だった。
引退に際しては全国から多くのファンが駆け付け、沿線各所には最後の姿を写真に収めようとする人々の姿が見られた。また、水島駅で開かれたセレモニーには多くの来場者が詰めかけた。
地域の日常を支えてきた1両の車両の引退は想定を上回る反響を呼んだ。
社内では「引退記念グッズを販売してはどうか」という意見が出され、それまでほとんど実施していなかったグッズ販売にも取り組んだ。
このとき同社の最大の収穫は、グッズ売上でも集客数でもなく、沿線の外にも水島臨海鉄道を応援するファンが多く存在することを知ったことだった。
地域の日常を支える交通機関としてだけでなく、鉄道そのものに価値を見いだして応援する人々の存在を同社は初めて強く意識するようになった。ただ、この時点では、その可能性を本格的な取り組みへ結び付けるまでには至っていなかった。

